製造業や廃棄物処理に携わる事業者にとって、焼却炉の適切な運用は法令遵守の観点から非常に重要な課題となっています。特に近年は環境規制の強化や住民意識の高まりにより、焼却炉に関する法的リスク管理の必要性が増しています。

本記事では、「焼却炉に関する法律や規制の最新情報」や「事業者が遵守すべき具体的なポイント」を詳しく解説します。

焼却炉に関する法律の概要

焼却炉の設置・運用には複数の法律が関係しており、事業者はこれらを遵守しなければなりません。近年は環境規制の強化により、法令順守の重要性がさらに高まっています。 

ここでは焼却炉を規制する主要な法律とその概要について解説します。

廃棄物処理法における焼却炉の位置づけ

廃棄物処理法では焼却炉は「廃棄物処理施設」として位置づけられ、一定規模以上の施設には許可が必要です。2000年の法改正以降は野焼きや簡易焼却炉での廃棄物焼却が原則禁止され、小規模な焼却炉でも適切な管理が求められています。

以下の条件に該当する焼却炉には都道府県知事の許可が必要です。

・ 一般廃棄物焼却炉:処理能力が1時間あたり200kg以上または火格子面積が2

・ 産業廃棄物焼却炉:処理能力が1時間あたり200kg以上または火格子面積が2㎡以上

出典元:環境省【廃棄物処理法における廃棄物処理施設の設置の許可制度について】

 大気汚染防止法の排出基準と焼却炉

大気汚染防止法では焼却炉は「ばい煙発生施設」として規制され、焼却能力が時間当たり50kg以上の施設は届出が必要です。 

ばいじん、硫黄酸化物、窒素酸化物などの排出基準が定められており、2018年からは水銀の排出規制も加わりました 

ダイオキシン類対策特別措置法の規制内容

大気汚染防止法では焼却炉は「ばい煙発生施設」として規制され、火格子面積が2m²以上または焼却能力が時間当たり200kg以上の施設が対象となります。 

ばいじん、硫黄酸化物、窒素酸化物、塩化水素、水銀などの排出基準が定められており、届出と定期的な測定・記録が義務付けられています。2018年からは水銀に関する排出規制も強化されました。

出典元:環境省【廃棄物焼却炉に係る塩化水素及び窒素酸化物の排出規制について

焼却炉の種類と規模に応じた法的要件

焼却炉は用途や処理能力によって様々に分類され、それぞれに適用される法的要件が異なります。ここでは焼却炉の主要な分類と法的要件について解説します。

 一般廃棄物焼却施設に適用される法規制

一般廃棄物焼却施設には、廃棄物処理法に基づく構造基準と維持管理基準が適用されます。主な要件をまとめると以下のとおりです。

・ 助燃装置の設置:​燃焼ガスの温度を800℃以上に保つための助燃装置の設置​

・ 二次燃焼室の設置:​ダイオキシン類の発生抑制のため、二次燃焼室の設置​

・ 排ガス処理設備の設置:​排ガスの冷却設備や、ばいじん・有害ガス除去装置の設置​

・ 燃焼ガスの温度管理:​燃焼室内の温度管理と、燃焼ガスの滞留時間の確保

処理能力が1100トン以上の廃棄物焼却施設の新設は、環境影響評価法の対象となり、計画段階から環境アセスメントが必要とされています。 

出典元:環境省【(参考4)構造基準・維持管理基準】

産業廃棄物焼却施設の法的基準

産業廃棄物焼却施設は多様な性状の廃棄物を扱うため、より厳格な管理が求められます。一般廃棄物と同様の基準が適用されますが、特別管理産業廃棄物を処理する施設にはさらに厳しい基準が課されます。

また、施設設置には地域住民との合意形成が実質的に必要となるケースが多いです。 

小型焼却炉に対する規制と免除条件

小型焼却炉の規制は焼却能力によって異なります。主な区分と規制は以下のとおりです。

  • 時間当たり200kg以上:​廃棄物処理法に基づき、設置許可が必要
  • 時間当たり50kg以上200kg未満:​設置許可は不要だが、大気汚染防止法およびダイオキシン類対策特別措置法の適用対象​
  • 時間当たり50kg未満:​多くの規制が免除されるが、構造基準の遵守が求められる

近年、法的義務がない場合でも、事業者が自主的に高性能設備を導入したり、廃棄物処理を外部に委託するケースが増加しています。 

焼却炉設置・運用における遵守すべきポイント

焼却炉を設置して運用するには、守るべき法律やルールが多く存在します。これらを管理することで、法律違反のリスクを避け、環境への影響を減らし、地域と良い関係を築くことができます。

 ここでは、焼却炉を適切に管理するために大切なポイントを詳しく解説します。

焼却炉設置前の許可申請と手続き

焼却炉の設置には、規模や用途に応じた適切な許可申請や届出が必要です。

まず事前に所轄官庁に相談し、必要な手続きを確認しましょう。申請書類には設計図面や維持管理計画など詳細な資料が求められるため、専門家との連携が重要です。

申請から許可取得までは数ヶ月を要するケースも多いため、計画的な準備が必要です。

環境アセスメントと住民説明会の実施

大規模な焼却施設では法定の環境調査が必要であり、中小規模でも自主的な調査や住民説明会が重要です。

近隣住民の理解を得るためには以下のポイントに注意しましょう。 

  • 施設の必要性と環境対策の丁寧な説明
  • 排出ガスデータの定期的な公開など情報開示の仕組み作り
  • 住民意見の設計・運用への反映
  • 施設見学会など継続的なコミュニケーション機会の創出 

焼却灰の適正処理と管理

焼却灰は廃棄物焼却処理の最終段階であり、適切な管理と処理が法令で厳しく規制されています。

焼却灰の処理と管理についてまとめると以下のとおりです。 

  • 溶出防止処理:飛灰からの有害物質の溶出を防ぐため、セメント固化や薬剤処理などの安定化処理が義務
  • マニフェスト管理:焼却灰の処理を委託する場合は、産業廃棄物管理票(マニフェスト)による厳格な追跡管理が必要
  • 最終処分場の選定:処理後の焼却灰は、その性状に応じた適切な最終処分場で処分する
  • 灰のリサイクル:近年は焼却灰を路盤材やセメント原料として再利用する
  • 保管基準の遵守:焼却灰を一時保管する場合は、雨水侵入防止、周囲への飛散防止などの保管を徹底 

焼却灰の不適切な処理は土壌汚染や水質汚染を引き起こす可能性があります。そのため、環境への影響が大きく、処理委託先の現地確認や監査を定期的に実施することが推奨されます。 

焼却炉に関する法令違反と罰則

焼却炉に関する法令違反は、罰則の適用だけでなく社会的信用の損失や事業継続への影響も大きいため、確実な法令遵守が必要です。ここでは主な違反ケースについて解説します。 

無許可設置・不適切運用の法的リスク

焼却炉の無許可設置や基準違反の運用は、厳しい罰則の対象となります。廃棄物処理法違反では5年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金(法人は3億円以下)、または併科という重い罰則が定められています。

違反事例として多いのは以下のようなケースです。

・ 必要な許可なく焼却炉を設置・運用

・ 構造基準に適合しない焼却炉での廃棄物焼却

・ 維持管理基準を満たさない不適切な運転(温度管理の不備など)

・ 廃プラスチックなど禁止物の焼却

排出基準超過時の対応と報告義務

排出ガス測定で基準値超過が判明した場合、速やかな対応が求められます。応急措置として運転条件の調整や一時停止を行い、原因究明と対策の実施が必要です。

また、基準超過の事実は所轄官庁に報告する義務があり、対応の遅れや報告義務違反は追加の罰則対象となることがあります。早期の情報開示と誠実な対応が重要です。