ダイオキシンの排出基準と遵守ポイント
「ダイオキシンの排出基準って具体的にどれくらい?」「自社の焼却炉は法令を守れているのか不安…」「測定や届出の手続きは何をすればいいの?」そう思う方もいるかもしれません。
実は、ダイオキシンの排出基準は施設の種類や規模によって明確に定められており、測定・届出・管理のポイントを押さえれば確実に遵守できるのです。
この記事では、ダイオキシン類対策特別措置法に基づく排出基準の詳細や施設区分ごとの基準値、測定義務と報告手続きのポイントを分かりやすく解説します。
ダイオキシン類対策特別措置法とは?基本を理解する

ダイオキシン類は、人体や環境に深刻な影響を与える有害物質であり、日本では厳格な法規制のもとで管理されています。ここでは、ダイオキシン類の基本的な知識と法律の概要について解説します。
▼ダイオキシン類とは何か?その有害性と健康影響
ダイオキシン類は、物質の燃焼過程で意図せず生成される化学物質のことです。ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、コプラナーPCBの3種類を含み、合計で数百種類の異性体が存在します。これらは極めて毒性が強く、発がん性、生殖毒性、免疫系への影響などが確認されています。
特に脂溶性が高いため、体内に蓄積しやすく、食物連鎖を通じて濃縮される特徴があります。人が生涯にわたり摂取しても健康に影響がないとされる耐容一日摂取量(TDI)は4pg-TEQ/体重kg/日と定められており、現在の日本人の平均摂取量は約1.5pg-TEQ/kg/日程度です。
▼法律で定められている主な規制内容
ダイオキシン類対策特別措置法では、大気、水質、土壌に関する環境基準が設定されており、大気は年平均値0.6pg-TEQ/m³以下、水質は年平均値1pg-TEQ/L以下などと定められています。また、ダイオキシン類を排出する施設を「特定施設」として指定し、施設の種類や規模に応じた排出基準を設けています。
事業者には、特定施設の設置や変更時の届出義務、年1回以上の排出濃度の測定義務、測定結果の報告義務が課されています。基準に違反した場合には、改善命令や施設の使用停止命令が発令され、悪質な場合には罰則の対象となります。
ダイオキシンの排出基準:施設種類別の詳細

ダイオキシン類対策特別措置法では、ダイオキシン類を排出する施設を「特定施設」として指定し、施設の種類や規模、新設・既設の区分に応じて明確な排出基準値が設定されています。排出基準は大気への排出ガスと水域への排出水に分けられており、それぞれ異なる単位と基準値が適用されます。
ここでは、施設種類別の排出基準値について詳しく解説します。
▼排ガスの排出基準値(大気基準適用施設)
大気中にダイオキシン類を排出する施設を「大気基準適用施設」といい、排出ガス中のダイオキシン類濃度の基準値はng-TEQ/m³Nという単位で表されます。対象となる主な施設は、廃棄物焼却炉、製鋼用電気炉、焼結炉、亜鉛回収施設、アルミニウム合金製造施設の5種類です。
それぞれの施設には規模要件が設定されており、例えば廃棄物焼却炉では火床面積が0.5平方メートル以上、または焼却能力が毎時50キログラム以上の施設が規制対象となります。複数の焼却炉が設置されている場合は、それらの合計で判断されます。
▼廃棄物焼却炉の排出基準と施設規模による違い
廃棄物焼却炉は最も一般的な特定施設であり、焼却能力によって3段階の基準値が設定されています。
焼却能力が毎時4トン以上の施設の基準は、以下のとおりです。
- 1. 新設施設:0.1ng-TEQ/m³N
- 2. 既設施設:1ng-TEQ/m³N
- 3. 毎時2トン以上4トン未満の施設:新設が1ng-TEQ/m³N、既設が5ng-TEQ/m³N
- 4. 毎時2トン未満の小規模施設:新設が5ng-TEQ/m³N、既設が10ng-TEQ/m³N
上記からわかるとおり規模が小さいほど基準値は緩やかになっています。これは大規模施設ほど高度な排ガス処理設備の導入が可能であるという技術的な考慮に基づいています。
▼製鋼用電気炉・焼結炉などの排出基準
廃棄物焼却炉以外にも、製造業で使用される各種施設が規制対象となっています。主な施設とその排出基準は以下の通りです。
- ⚫︎製鋼用電気炉:変圧器の定格容量が1000kVA以上の施設が対象。新設0.5ng-TEQ/m³N、既設5ng-TEQ/m³N
- ⚫︎焼結炉:原料処理能力が毎時1トン以上の施設が対象。新設0.1ng-TEQ/m³N、既設1ng-TEQ/m³N
- ⚫︎亜鉛回収施設:製鋼用電気炉のばいじんからの亜鉛回収施設で、原料処理能力が毎時0.5トン以上が対象。新設1ng-TEQ/m³N、既設10ng-TEQ/m³N
- ⚫︎アルミニウム合金製造施設:アルミくずを原料とする施設。焙焼炉・乾燥炉は原料処理能力が毎時0.5トン以上、溶解炉は容量1トン以上が対象。新設1ng-TEQ/m³N、既設5ng-TEQ/m³N
これらの施設を運営する事業者は、該当する基準値を確認し、適切な排ガス処理設備を整備する必要があります。
▼排出水の排出基準値(水質基準対象施設)
ダイオキシン類を含む汚水や廃液を排出する施設を「水質基準対象施設」といい、排出水中のダイオキシン類濃度の基準値は10pg-TEQ/Lと定められています。対象となる施設は、パルプ漂白施設、廃ガス洗浄施設、湿式集じん施設、廃棄物焼却炉に係る排水施設など多岐にわたります。
特に廃棄物焼却炉関連の廃ガス洗浄施設や灰の貯留施設から排出される排水は規制対象です。廃棄物最終処分場の放流水についても同じく10pg-TEQ/Lの基準が適用されます。また、水質基準は大気基準と異なり、新設・既設の区分はなく一律の基準値です。
▼「新設」と「既設」の基準値の違いと適用区分
排出基準における「新設」と「既設」の区分は、施設の設置時期によって決まります。平成12年1月15日の法施行時に既に設置されていた施設は「既設」として扱われ、比較的緩やかな基準値が適用されます。
ただし例外があり、廃棄物焼却炉(火格子面積2m²以上または焼却能力200kg/h以上)と製鋼用電気炉については、平成9年12月2日以降に設置工事に着手した施設は「新設」扱いです。それ以外の全ての施設は「新設」の基準値が適用されます。
測定義務と報告手続きの完全ガイド
ダイオキシン類対策特別措置法では、特定施設の設置者に対して定期的な濃度測定と測定結果の報告が義務付けられています。測定は専門的な知識と設備が必要であり、適切な方法で実施しなければ正確な結果が得られません。
ここでは、測定義務と報告手続きについて詳しく解説します。
▼測定頻度と測定対象(排ガス・ばいじん・燃え殻)
大気基準適用施設の設置者は、年1回以上、排出ガス中のダイオキシン類濃度を測定しなければなりません。測定は通常の操業状態で実施する必要があります。
廃棄物焼却炉の場合は、排出ガスに加えて、ばいじん(集じん機で捕集されたすすや粉じん)と燃え殻(焼却炉の底に残る灰)についても測定が必要です。ただし、1年を通じて休止している施設は測定義務が免除されます。
測定は専門の測定機関に委託するのが一般的で、結果判明までには1~2ヶ月程度かかるため、年間スケジュールを事前に計画しておくことが重要です。
▼測定方法の詳細(JIS規格と簡易測定法)
排出ガスの測定は、日本工業規格JIS K0311に基づいて実施します。通常の操業状態で原則4時間以上ガスを採取し、標準状態に換算した上で、焼結炉では酸素濃度15パーセント、廃棄物焼却炉では酸素濃度12パーセントにおける濃度に換算して基準値と比較します。
焼却能力が毎時2トン未満の小規模焼却炉については、環境大臣が定める簡易測定法の使用も認められています。測定は高度な専門知識が必要なため、計量証明事業の登録を受けた測定機関に依頼するのが確実です。
▼測定結果の報告義務と報告先
測定結果が判明した後は、速やかに都道府県知事または政令指定都市の長に報告しなければなりません。報告には所定の様式があり、施設情報、測定日時、測定結果、測定機関名などを記載します。
測定結果が排出基準を超過していた場合は、直ちに改善措置を講じ、再測定を実施する必要があります。報告を怠ると罰則の対象となるため、測定後は速やかに手続きを完了させることが重要です。
