ダイオキシン類対策特別措置法の概要
「ダイオキシン類対策特別措置法って何?」「焼却施設の管理で法令違反にならないか不安…」「測定義務や届出はどうすればいいの?」そう思っている方も多いのではないでしょうか。
実は、ダイオキシン類対策特別措置法は、排出基準、測定義務、届出手続きという3つのポイントを押さえれば、適切に対応できる法律なのです。
この記事では、ダイオキシン類対策特別措置法の基本的な内容、規制対象となる施設、実務上必要な手続き、そして法令遵守のために押さえるべき重要ポイントを、わかりやすく解説します。
ダイオキシン類対策特別措置法とは?法律の目的と背景

ダイオキシン類対策特別措置法は、平成11年7月に制定され、平成12年1月15日から施行された法律です。この法律は、ダイオキシン類が人の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある物質であることを踏まえ、環境汚染の防止と除去を目的としています。
ここでは法律の目的やダイオキシン類の定義について解説します。
▼法律の目的と基本理念
ダイオキシン類対策特別措置法の目的は、ダイオキシン類による環境の汚染の防止及びその除去等を行うため、必要な規制及び事業に係る措置等を定めることにより、国民の健康の保護を図ることです。法律では、ダイオキシン類に関する施策の基本とすべき基準として耐容一日摂取量や環境基準を定めています。
また、排出規制だけでなく、常時監視や土壌汚染対策など、総合的で計画的な対策を推進することを基本理念としています。この法律により、国及び地方公共団体が一体となってダイオキシン類対策に取り組む体制が整備されました。
▼ダイオキシン類の定義と健康への影響
法律におけるダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)及びコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)の3種類と定義されています。ダイオキシン類は各異性体の毒性が異なるため、2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシンの毒性に換算した毒性等量(TEQ)で表します。
これらの物質は非常に分解されにくく、環境中に長期間残留する特性があります。人体への影響としては、発がん性、生殖毒性、免疫機能への影響などが懸念されており、生涯にわたって継続的に摂取した場合の健康影響が評価されています。
規制対象となる施設と設備の種類

ダイオキシン類対策特別措置法では、ダイオキシン類を発生し排出する施設を政令で指定し、規制対象としています。規制対象施設は大きく分けて、大気中に排出ガスを出す「大気基準適用施設」と、汚水や廃液を排出する「水質基準対象施設」の2種類があります。
それぞれの施設には規模要件が定められており、火床面積や焼却能力、処理能力などの基準を超える施設が規制対象となります。
ここでは規制対象となる施設の種類と該当条件について解説します。
▼大気基準適用施設の種類と規模要件
大気基準適用施設は、ダイオキシン類を発生し大気中に排出する施設として政令で指定されたものです。主な施設として、製鋼用電気炉、亜鉛回収用の焙焼炉や溶鉱炉、アルミニウム合金製造用の溶解炉などがあります。最も多くの事業者に関係するのが廃棄物焼却炉で、火床面積が0.5平方メートル以上または焼却能力が50kg/h以上のものが対象となります。
2つ以上の廃棄物焼却炉が設置されている場合は、それらの火床面積または焼却能力の合計をもって規制対象かどうかを判断します。施設規模要件を満たすかどうかは、設置届出の前に必ず確認する必要があります。
▼水質基準対象施設の種類と該当条件
水質基準対象施設は、ダイオキシン類を含む汚水または廃液を排出する施設として指定されたものです。主な施設として、廃PCB等の分解施設、PCB処理物の洗浄・分離施設、下水道終末処理施設、水の処理施設などがあります。
下水道終末処理施設や水の処理施設は、それ自体がダイオキシン類を発生させるわけではありませんが、大気基準適用施設に係る汚水等を受け入れることで水質基準対象施設となります。また、工場内部で循環利用している施設や下水道に接続している施設も水質基準対象施設に該当することに注意が必要です。
▼廃棄物焼却炉の規制対象範囲
廃棄物焼却炉は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律に基づく廃棄物を焼却処理する施設が該当します。規制対象となるのは、火床面積が0.5平方メートル以上または焼却能力が50kg/h以上200kg/h未満の小型焼却炉も含まれます。
これらの小型焼却炉にかかわる廃ガス洗浄施設等も水質基準対象施設となるため、大気と水質の両方の規制を受けることになります。廃棄物焼却炉の管理では、適正負荷や燃焼管理の徹底など発生源対策が特に重要であり、関係部局間と連携して対応することが求められます。
排出基準と環境基準の詳細
ダイオキシン類対策特別措置法では、特定施設からの排出を規制するための排出基準と、環境保全の目標となる環境基準の2種類の基準が定められています。排出基準は、技術水準を勘案して施設の種類や規模ごとに設定されており、事業者が遵守すべき具体的な数値基準です。
ここでは各基準の具体的な数値と適用範囲について解説します。
▼大気排出基準の具体的な数値と適用施設
大気への排出基準は、施設の規模や種類に応じて決められています。新しく建てられる大規模な施設では、最新かつ最も優れた技術を使うことを前提に、厳しい基準が設定されています。一方、すでに稼働している施設や中小規模の施設については、導入できる技術やコスト面など、現実的に対応できる範囲を考慮して基準が定められています。
たとえば廃棄物焼却炉の場合、焼却能力や火床面積によって基準値が異なり、大規模施設ほど厳しい基準が適用されます。既存施設については、対策技術を導入するまでに一定の期間が必要なことを踏まえ、段階的に基準を強化する仕組みが採用されました。
排出ガス中のダイオキシン類濃度は、排出口において測定され、ng-TEQ/m³の単位で評価されます。事業者は自社の施設がどの基準に該当するかを正確に把握する必要があります。
▼水質排出基準の具体的な数値と適用施設
水質排出基準は、排水口から排出される水中のダイオキシン類濃度について定められています。基準値は施設の種類によって異なり、例えば製鋼用電気炉や亜鉛回収施設などは比較的厳しい基準が適用されます。既存施設に対しては、法施行から3年間に限って適用される暫定的な水質排出基準が設定されており、その期間内に本来の基準を達成できるよう対策を進めることが求められます。
異なる水質排出基準が適用される複数の施設をもつ事業場で排水系統が一つの場合は、最も厳しい基準が適用され、水質排出基準はpg-TEQ/Lの単位で表されます。
▼環境基準(大気・水質・土壌)の基準値
環境基準は、人の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準として設定されています。大気環境基準は0.6pg-TEQ/m³以下、水質環境基準は1pg-TEQ/L以下、土壌環境基準は1,000pg-TEQ/g以下と定められています。これらは各般にわたる対策を総合的に推進するための行政目標であり、汚染の進行を基準値の上限まで容認することを趣旨とするものではありません。
環境基準の達成状況は、大気と水質については年間平均値で評価し、土壌については1回の調査結果で評価します。都道府県は常時監視を通じてこれらの基準の達成状況を把握し、必要な対策を講じることが求められます。
▼耐容一日摂取量(TDI)の考え方
耐容一日摂取量とは、ダイオキシン類を人が生涯にわたって継続的に摂取したとしても健康に影響を及ぼすおそれがない1日当たりの摂取量のことです。法律では、人の体重1キログラム当たり4pg-TEQと定められています。この数値は、中央環境審議会、生活環境審議会及び食品衛生調査会の検討結果を踏まえて設定されたものです。
耐容一日摂取量は生涯にわたる摂取を前提とした健康影響の指標であるため、一時的にこの値を超過する量の曝露を受けたからといって直ちに健康を損なうものではありません。
事業者に求められる義務と手続き
ダイオキシン類対策特別措置法では、特定施設を設置する事業者に対してさまざまな義務が課せられています。特定施設を新たに設置する場合や既存施設を変更する場合には、事前に都道府県知事への届出が必要です。
ここでは事業者が実務上対応すべき主要な義務と手続きについて解説します。
▼特定施設設置時の届出手続き
特定施設を設置する場合は、工事開始前に都道府県知事へ届出が必要です。届出事項には施設の種類、構造、使用方法、排出ガスや排出水の処理方法、ダイオキシン類発生抑制のための配慮事項、緊急連絡方法などが含まれます。
届出受理後は一定期間、工事着手が制限されます。水質基準対象施設で下水道に排除する場合は、下水道法に基づく届出も必要となるため注意が必要です。
▼事故発生時の応急措置と通報義務
特定施設の故障や破損によりダイオキシン類が大量に排出された場合、設置者は直ちに応急措置を講じる必要があります。応急措置には施設の運転停止、水の供給停止、土のうによる流出防止などがあります。
同時に、事故状況を速やかに都道府県知事に通報する義務があります。公共用水域への排出だけでなく、下水道排除の場合も通報が必要です。
