土壌汚染が自然由来なら費用は抑えられる?判定基準と調査の手順を解説
土地の調査を進めていたら、基準値を超える有害物質が検出された。そんな事態に直面すると、「莫大な浄化費用がかかるのではないか」「土地の活用計画が白紙に戻るのではないか」と不安になるのは当然です。
しかし、その汚染が「自然由来」によるものであれば、話は変わってきます。土壌汚染対策法には自然由来の汚染を特別扱いする制度があり、通常の人為的汚染と比べて対策の選択肢が広がり、費用を大幅に抑えられる可能性があります。
ただし、自然由来と認められるためには一定の判定基準を満たす必要があり、正しい手順を踏まずに進めると余計なコストや手戻りが生じることもあります。
この記事では、自然由来の土壌汚染とは何か、人為由来との違い、判定のための3つの基準、具体的な調査の手順、そして自然由来と認められた場合の費用へのメリットまでを整理して解説します。土地所有者や開発担当者の方が、損をしない判断をするための情報をまとめています。
土壌汚染の「自然由来」とは?人為由来との決定的な違い

土壌汚染と聞くと、工場や廃棄物処理施設から漏れ出した有害物質による汚染をイメージする方が多いと思います。しかし土壌汚染には、もう一つの由来があります。それが「自然由来」の汚染です。
自然由来の土壌汚染とは、人の手による汚染の事実がないにもかかわらず、その土地が地質的にもともと特定有害物質を含んでいる状態を指します。簡単にいえば、「大地そのものが持つ成分が基準値を超えている」ケースです。一方、工場の操業や廃棄物の不適切な処理など、人間の活動が原因となる汚染を「人為由来」(あるいは「人為等由来」)と呼びます。
同じ有害物質が基準値を超えていても、由来によって土壌汚染対策法上の扱いが大きく異なります。この区別が、対策費用や規制の内容を左右する重要なポイントになります。
▼自然由来として扱われる主な物質(フッ素・鉛・砒素など)
自然由来の土壌汚染として認められる可能性があるのは、土壌汚染対策法が規制対象とする「特定有害物質」のうち、シアン化合物を除く重金属類(第二種特定有害物質)です。具体的には以下のような物質が挙げられます。
・砒素(ヒ素)
・鉛
・フッ素(ふっ素)
・ホウ素(ほう素)
・カドミウム
・水銀
・セレン
・六価クロム
これらの重金属類は、自然界にもともと存在する物質です。火山噴出物の堆積層・火山岩・鉱山跡地の周辺・海成の堆積層など、特定の地質条件を持つ土地では、人間の活動とは無関係にこれらの物質が高濃度で分布していることがあります。
一方、揮発性有機化合物(トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなど)は工業的な化学物質であるため、自然由来としての扱いにはなりません。また、シアン化合物についても同様です。検出された物質の種類によって、自然由来の可能性があるかどうかが大きく変わります。
▼なぜ「自然由来」だと対策が変わるのか
土壌汚染対策法の根本的な目的は、土壌汚染による人の健康被害を防ぐことです。そのため、法律は汚染の由来よりも「健康リスクがあるかどうか」を重視する設計になっています。
自然由来の汚染には、人為由来の汚染とは異なる特徴があります。第一に、汚染が特定の場所に集中するのではなく、地質的な広がりとして周辺を含む広い範囲にわたって均一に分布していることです。第二に、汚染濃度が比較的低く抑えられている傾向があります。
このような特性を踏まえて、土壌汚染対策法では自然由来の汚染に対して特別な取り扱いを設けています。2011年(平成23年)の法改正で自然由来の汚染も規制対象に加えられましたが、同時に「自然由来特例区域」という制度も創設されました。この制度のもとでは、通常の「形質変更時要届出区域」よりも緩やかな管理基準が適用されるため、掘削除去(土の入れ替え)を行わずに済む可能性が高まります。
つまり、同じ有害物質の検出であっても、自然由来と認定されることで、対策の選択肢が広がり、結果として費用を抑えられる可能性が生まれるのです。
自然由来と判定されるための3つの基準
自然由来の汚染かどうかを判断するにあたっては、三つの観点から総合的に評価されます。単一の基準で決まるものではなく、複数の証拠を組み合わせて判断されます。それぞれの基準の内容を理解しておくことが、適切な対策を進めるための第一歩です。
▼地歴調査で「過去の汚染履歴」がないことを証明する
最初の判断ポイントは、その土地に人為的な汚染原因が存在したかどうかの確認です。これを「地歴調査」といいます。
地歴調査では、古い地図・航空写真・登記記録・環境関連の公開資料・周辺住民へのヒアリングなどを使って、対象地の過去の土地利用を遡ります。調査の範囲は一般的に数十年前にまで及ぶことがあります。
・過去に工場・ガソリンスタンド・クリーニング店などが存在したか
・有害物質を使用する事業が行われていたか
・廃棄物の不法投棄や薬品の漏洩があったか
これらの事実が確認されなければ、人為的汚染の可能性が低いと判断されます。反対に、こうした履歴があった場合、たとえ重金属類が検出されても自然由来として認められない場合があります。
地歴調査の費用目安はおおむね10万〜30万円程度で、調査する資料の範囲や詳細さによって変わります。
▼汚染の広がり(分布)が均一で広範囲であるか
二つ目の判断ポイントは、汚染の分布状況です。
自然由来の汚染は、地質の広がりと連動して対象地を含む広い範囲に均一に分布します。これは人為由来の汚染とは対照的です。人為由来の場合、汚染物質の漏洩・投棄箇所を中心に濃度が高く、周辺に向かって濃度が下がる「点汚染」のパターンが多いのです。
具体的には以下の点が確認されます。
・汚染の分布が、有害物質の使用履歴がある場所と関連していないか
・汚染範囲が局所的(特定箇所に集中)ではなく、広域に広がっているか
・周辺の地質調査や近隣地域の事例と分布パターンが一致しているか
また、自然由来盛土等として扱われるケースもあります。これは、自然由来の汚染土壌が使われた盛土部分のことで、調査対象地と地質的に同質な状態で広がっている場合が該当します。
▼分析データによる数値的基準(溶出量・含有量)
三つ目の判断ポイントは、土壌分析データによる数値的な確認です。
自然由来と認められるためには、汚染の状態が一定の数値的基準に収まっている必要があります。主な基準は以下のとおりです。
・土壌溶出量基準値のおおむね10倍以内であること(第二溶出量基準を超えないこと)
・土壌含有量(全量分析)が自然由来としての目安値を超えないこと
これらの数値は、国が定める特定有害物質ごとの基準値と照合されます。たとえば溶出量が基準の10倍を大幅に超えるようなケースでは、自然由来ではなく人為的な高濃度汚染の可能性が疑われます。
土壌の溶出量調査・含有量調査にかかる費用は調査規模によって異なりますが、ボーリング調査(1地点あたり)で20万〜80万円程度が目安です。対象地の面積や調査地点数によって総額は大きく変わります。
自然由来の土壌汚染が疑われる際の手順・フロー
自然由来の可能性があると判断した場合、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。大まかには「地歴調査 → 詳細な土壌分析 → 行政への申請」というステップになりますが、それぞれの段階での注意点を整理します。
▼ステップ1:専門業者による詳細な地歴調査
まず行うべきは、土壌汚染対策法に基づく指定調査機関(専門の調査業者)への依頼です。自己判断で調査を進めても、行政に認められる証拠として機能しないケースがあります。
地歴調査では、土地の過去の利用履歴を文書で遡るとともに、対象地周辺の地質情報・地質図・近隣地域での汚染事例なども収集します。火山の堆積物や地層の構成が自然由来汚染を示唆するかどうかも、この段階で評価されます。
この調査で「人為的汚染のおそれがない」という判断が得られれば、次のステップ(自然由来の可能性を裏付ける土壌分析)へと進みます。反対に、人為的汚染の痕跡が見つかった場合、自然由来特例の適用は難しくなるため、通常の汚染対策フローに切り替える必要があります。
▼ステップ2:自然由来の可能性を裏付ける追加分析
地歴調査で自然由来の可能性が示唆されたら、土壌の採取・分析を行います。土壌汚染対策法の「自然由来汚染調査」に定められた方法に従って、対象地内の複数地点からサンプルを採取し、溶出量・含有量を測定します。
この段階では、以下の点を確認します。
・検出された物質が重金属類(シアン化合物を除く第二種特定有害物質)であるか
・溶出量が基準値のおおむね10倍以内であり、第二溶出量基準を超えていないか
・含有量が自然由来の目安値を超えていないか
・汚染の分布が均一で、人為汚染のパターンと異なるか
また、対象地に盛土の部分がある場合は、自然由来盛土等に該当するかどうかの確認も必要になります。平成31年(2019年)の法改正以降、自然由来汚染調査を行う際に盛土部分についても試料採取が必要とされています。
▼ステップ3:行政への相談と「自然由来特例区域」の申請
調査の結果、自然由来と判断できる根拠が揃ったら、都道府県知事(または政令市の長)への申請に向けて準備を進めます。
まず重要なのは、調査の早い段階から行政の担当部署(環境部局)に相談しておくことです。自然由来特例区域への該当性の判断は複雑で、すべての区画について関連する特定有害物質の状況を総合的に鑑みて行われます。事前相談なしに書類を揃えて申請しても、修正や追加調査を求められるケースがあります。
自然由来特例区域として認められると、土地の台帳にその旨が記載され、通常の形質変更時要届出区域とは異なる管理基準のもとで土地を活用できるようになります。申請から指定までにかかる期間は行政の審査状況によって異なりますが、数か月程度を見込んでおくとよいでしょう。
自然由来と認められた場合のメリットとコストへの影響
自然由来特例区域として認定されることで、土地所有者や開発事業者にとって具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。費用面・規制面の両側から整理します。
▼「自然由来特例区域」指定による規制緩和の内容
通常の形質変更時要届出区域では、土地の形質を変更する(掘削・盛土など)たびに行政への届出が必要で、作業方法にも厳しい制約があります。
自然由来特例区域に指定された場合、土地の形質変更における施行方法の基準が別途設けられ、一定の条件のもとで通常より柔軟な対応が可能になります。具体的には、都道府県知事が定める施行方法の基準に従って工事を進めることで、工事ごとの事前届出に代えて一括での確認手続きが認められる場合があります。
また、同一の地層の自然由来汚染がある他の区域との間で、一定の条件を満たした場合に汚染土の移動ができる制度もあります。これにより、建設工事で発生した自然由来の汚染土を別の自然由来特例区域への搬入・利用に活用しやすくなるケースがあります。
▼掘削除去(入れ替え)を回避し、盛土・舗装でコストを抑える
自然由来汚染で最も大きなコスト削減効果をもたらすのが、「掘削除去を回避できる」という点です。
掘削除去とは、汚染された土壌を機械で掘り起こして場外の処理施設に運搬し、きれいな土と入れ替える工法です。確実に汚染を取り除ける一方、費用は1㎥あたり3万〜10万円程度が相場とされており、汚染範囲が広い・深い場合には総工費が数千万円から億単位に達することも珍しくありません。掘削深度が1mを超えると矢板による土留め工事が追加で必要になり、地下水が浅い場合には排水処理で費用がさらに膨らむこともあります。
一方、自然由来特例区域では、直接摂取リスクを遮断する「管理型」の対策が認められます。具体的には盛土や舗装によって人が汚染土に直接触れる経路を遮断する方法です。管理型の対策費用は1㎥あたり1万〜2万円程度が目安で、掘削除去と比べると大幅なコスト削減になります。
たとえば、駐車場や工場用地として活用する場合は、アスファルト舗装によって直接摂取経路を遮断する方法が現実的な選択肢になります。汚染土を場外に持ち出す必要がなく、埋め戻し用の健全土の購入費用もかからないため、プロジェクト全体のコストを合理的に管理できます。
ただし、管理型の対策では定期的な監視モニタリングが必要です。区域指定が解除されるわけではないため、土地の売却時には重要事項説明での開示が求められる点も念頭に置いておきましょう。
知っておきたい自然由来汚染土の搬出・売却リスク
自然由来と認定されることはメリットが多い反面、土地を使い続ける・売却する・工事で土が発生するといった場面では別途注意が必要です。汚染土の取り扱いに関するルールと、資産価値への影響を理解しておきましょう。
▼建設工事で発生した汚染土の適切な処理先
自然由来特例区域内で建設工事を行うと、必然的に自然由来の汚染土が発生します。この汚染土の搬出には、特定の条件と手続きが必要です。
自然由来の汚染土壌は、通常の残土と同様に扱うことはできません。搬出先としては主に以下の選択肢があります。
・自然由来等の土壌を受け入れる汚染土壌処理施設への搬出
・同一地層の自然由来汚染があると認められた他の自然由来特例区域等への搬入(基準不適合の状態が同じであることが確認された場合)
・自然由来等土壌構造物利用施設への活用
2019年の法改正以降、自然由来等の汚染土を同質な基準不適合区域間で移動できる仕組みが整備されました。これにより、建設工事で発生した汚染土を適切な受け入れ先へ搬入しやすくなっています。ただし、搬出の際には行政への届出や搬出先の確認が必要で、無断で通常の残土処理場に持ち込むことは法律違反になります。
▼土地売却時の資産価値への影響と重要事項説明
自然由来特例区域に指定された土地を売却する場合、不動産取引における重要事項説明での開示が必要です。買い手にとって土壌汚染の存在は取引判断に影響する重要な情報であり、説明を怠ると後々トラブルになるリスクがあります。
資産価値への影響については、人為由来の汚染よりも影響が小さいケースが多い一方、一定の価格調整が生じることは否定できません。ただし、自然由来特例区域であることを明示し、適法に管理されていることを証明できれば、買い手が感じる不安を最小化できます。
また、自然由来特例区域の指定は土壌汚染対策法に基づく台帳に記録されており、誰でも閲覧可能です。売却に先立ち、調査結果や対策状況をしっかり文書化しておくことが、スムーズな取引につながります。
よくある質問:自然由来でも対策義務が生じるケースとは?
自然由来と認められれば対策は不要、というわけではありません。実際の状況によっては対策義務が生じるケースもあります。よくある疑問をまとめました。
Q:自然由来特例区域でも「要措置区域」に指定されることはありますか?
A:はい、あります。自然由来の汚染であっても、いずれかの特定有害物質について要措置区域に相当する状態がある場合は、その区画は自然由来特例区域には該当せず、通常の「一般管理区域」として扱われます。自然由来特例区域への指定は、すべての特定有害物質が形質変更時要届出区域に相当する状態であることが前提となります。
Q:自然由来の汚染でも地下水汚染対策は必要ですか?
A:土壌溶出量基準に適合しない汚染が存在する場合、地下水経由での健康リスクが生じる可能性があります。その場合、地下水の水質測定が求められることがあります。ただし、管理型の対策(封じ込め等)によってリスクを管理する方向で対応できるケースもあります。
Q:土地開発を予定していますが、事前に調査しておく必要はありますか?
A:3,000㎡以上の土地の形質変更を行う場合、または有害物質使用特定施設が設置されている土地では900㎡以上の場合に、事前届出が義務付けられています。届出の際に都道府県知事が土壌汚染のおそれがあると認めた場合、土壌汚染状況調査の実施を命じられることがあります。大規模な開発を計画している場合は、計画の初期段階から専門業者に相談し、リスクを把握しておくことを強くお勧めします。
Q:自然由来と人為由来の汚染が混在していた場合はどうなりますか?
A:自然由来と他の由来による汚染の両方が存在する場合は、両者を区別して台帳に記録されます。自然由来の部分については特例区域に相当する扱いを受けられる可能性がありますが、人為由来の部分については通常の規制が適用されます。混在するケースは判断が複雑になるため、早い段階から指定調査機関・行政との連携が重要です。
まとめ
土壌汚染が発覚しても、その原因が自然由来であれば、対策の選択肢が広がり費用を抑えられる可能性があります。ここで解説した内容を振り返ります。
・自然由来の汚染とは、地質的な要因で重金属類が基準値を超えている状態であり、人為的汚染とは法律上の扱いが異なる
・自然由来と判定されるためには、(1)地歴調査による汚染履歴のなさの証明、(2)均一で広範囲な汚染分布の確認、(3)溶出量・含有量の数値的基準の充足、という三つの観点から総合的に評価される
・調査は指定調査機関に依頼し、地歴調査→土壌分析→行政への申請という手順を踏む
・自然由来特例区域に認定されると、掘削除去を回避して盛土・舗装などの管理型対策が選択でき、費用を大幅に抑えられる可能性がある
・汚染土の搬出や土地売却時には別途のルールと注意が必要
最初の一歩は、まず指定調査機関への相談と地歴調査の実施です。自然由来の可能性があるのかどうかを早期に見極めることが、その後の対策費用と手続きの全体を左右します。
土壌汚染の問題は複雑で、ケースごとに判断が異なります。「自分の土地はどうなのか」という疑問は、専門家に直接確認することで、具体的な見通しが立てられます。調査結果を正しく読み解き、適切な判断ができるよう、早めに動き出すことをお勧めします。
