焼却炉とCO2排出削減の取り組み
「焼却炉からのCO2排出量はどのくらいなの?」「うちの会社の焼却炉、環境負荷を減らすにはどうすればいいんだろう…」「CO2削減の具体的な方法が知りたい」と思っている方も多いのではないでしょうか。
実は、焼却炉のCO2排出削減には、排出量の正確な把握、最新の燃焼制御技術の導入、そして熱回収システムの活用という3つのアプローチが効果的です。
この記事では、焼却炉から排出されるCO2の計算方法や削減技術などについて詳しく紹介します。
焼却炉のCO2排出量の基礎知識と計算方法
焼却炉から出るCO2を正しく管理するには、まずその発生の仕組みを理解し、どのくらい排出されているのかを正確に把握することが大切です。
ここでは、焼却炉でCO2が生まれる仕組み、具体的な計算方法、そして実際の調査の進め方について分かりやすく解説します。
▼焼却炉からCO2が発生する仕組みとは
焼却炉では廃棄物を高温で燃焼させる際に、含まれている炭素成分が酸素と結合してCO2が発生します。特にプラスチック類や紙類、木材などの有機物を燃焼させると、大量のCO2が排出されることになります。
廃棄物の種類によってCO2排出量は大きく異なり、プラスチック系の廃棄物は化石燃料由来のため多くのCO2を排出しますが、紙や木くずなどは植物由来のためバイオマス燃料として扱われ、カーボンニュートラルと考えられることがあるでしょう。また、焼却炉の運転に必要な補助燃料の使用も、CO2排出量に大きく影響します。
▼CO2排出量を計算する簡単な公式
焼却炉からのCO2排出量は、「活動量×排出係数」という基本的な公式で計算することができます。活動量とは、実際に焼却した廃棄物の量や使用した燃料の量など、排出活動の規模を示す数値のことです。排出係数は、活動量1単位あたりのCO2排出量を示す値で、廃プラスチックの場合は1トンあたり約2.77トンのCO2が排出されるとされています。
例えば、年間100トンの廃プラスチックを焼却した場合、277トンのCO2が排出される計算です。この計算方法は環境省が定める算定方法に基づいており、多くの企業で採用されています。
参照元:株式会社NTTデータ関西「製造業のCO2排出量計算完全ガイド。計算の基礎からDXによる管理まで
▼自社の焼却炉から出るCO2量の調べ方
実際にCO2排出量を算定するためには、まず焼却している廃棄物の種類と量を正確に把握しなければなりません。多くの場合、廃棄物は混合状態で処理されているため、組成分析を行って各成分の割合を調べることが重要になります。製造業では、電力使用量や燃料消費量などの活動量データを正確に把握しておきましょう。
焼却炉の場合、処理した廃棄物量、使用した補助燃料量、電力使用量などのデータを月別に収集し、それぞれに対応する排出係数を適用して計算を行います。環境省が提供する「算定方法・排出係数一覧」を参考にすることで、より精度の高い算定が可能になります。
参照元:株式会社NTTデータ関西「製造業のCO2排出量計算完全ガイド。計算の基礎からDXによる管理まで
焼却炉のCO2を減らす最新技術
焼却炉からのCO2削減には、燃焼技術の改善、制御システムの最適化、そして排出されたCO2の回収・再利用という3つの方法があります。
ここではそれぞれの最新技術について詳しく解説します。
▼燃焼温度を上げてCO2を削減する方法
焼却炉内に850℃以上の高温域を形成することで、一酸化二窒素(N2O)排出量の大幅な削減が可能です。N2Oは二酸化炭素の約300倍の温室効果があるため、この削減効果は非常に大きく、下水道事業で発生する温室効果ガス排出量の約2割を占めています。高温燃焼技術では、従来の流動炉の燃焼温度800℃と比較して、N2O排出量を約8割削減することが可能です。
また、高温燃焼により有害物質の分解も促進され、より完全な燃焼が実現できるため、補助燃料の使用量削減にもつながり、結果的にCO2排出量の削減効果も期待できます。
参照元:地方共同法人 日本下水道事業団
▼空気の送り方を改善してCO2を減らす技術
焼却炉への空気供給の最適化により、電力・燃料由来の二酸化炭素(CO2)排出量と電力費・燃料費を削減できます。具体的には、燃焼用空気を3か所に分けて供給し、炉内に各々の燃焼ゾーンを形成することで、炉内での燃焼を最適化する技術が開発されています。
また、流動床炉の燃焼空気ラインに過給機を組み込むことで、従来の流動ブロワの機能を代替し、焼却システム全体の消費電力量および電力由来CO2排出量を約4割削減することも可能です。この技術は新設・増設だけでなく、既存の焼却炉の改築事業にも適用可能で、比較的短期間での導入が期待できるでしょう。
参照元:地方共同法人 日本下水道事業団
▼排出されるCO2を回収して再利用する仕組み
焼却時に発生するCO2は煙突から回収し、再エネで作った「グリーン水素」と反応させ、メタノールやエタノールを作ることができます。この技術では、焼却時に出るCO2の90%程度を回収することが実証されており、回収したCO2をプラスチックの原料として再利用することで、循環型の資源利用が可能になります。
現在燃やしているゴミには紙や食品も混ざっていて、半分はバイオマス由来のため、その分はカーボンニュートラルなCO2と考えることができます。CO2を90%回収してプラスチックの原料として利用できるようになれば、工程全体でのCO2排出量はむしろマイナス(ネガティブエミッション)になる可能性があるでしょう。
参照元:国立研究開発法人 国立環境研究所「ゴミ焼却の熱とCO2を工場で活用する「LCCN」の社会実装に向けて
焼却炉の熱を有効活用してCO2削減
焼却炉で発生する熱エネルギーを効率的に活用することで、大幅なCO2削減を実現できます。従来は発電に利用されることが多かった焼却熱ですが、蒸気として直接供給する方が遥かに高い効率を実現でき、工場などの産業用途での活用が注目されています。
ここでは焼却熱を活用した蒸気供給システム、発電と蒸気利用の効率比較、そして工業地帯での連携事例について解説します。
▼焼却熱で蒸気を作って工場に供給する方法
焼却炉で発生する熱の大半は発電に用いられていますが、発電効率は高くありません。LCCNではリサイクルが難しい廃棄物を焼却し、蒸気を熱のまま高効率に活用します。プラスチックを製造している化学工場などでは大量の蒸気を使用しているため、コンビナートのそばに大規模なゴミ焼却炉を建設し、そこで発生する焼却熱を活用してもらうことが検討されています。
蒸気の長距離輸送は技術的に困難なため、工場との近接配置が重要なポイントです。焼却炉のボイラーから蒸気供給をする場合、約90%の熱を最小限のロスで有効に使えるため、非常に効率的なエネルギー利用が実現できます。
参照元:国立研究開発法人 国立環境研究所「ゴミ焼却の熱とCO2を工場で活用する「LCCN」の社会実装に向けて
▼発電よりも蒸気利用の方が効率的な理由
ゴミを燃やしたときに出るガスには塩化水素等が含まれているので、ボイラー配管の腐食を防ぐために、最高で450℃程度までしか蒸気温度を上げられず、発電効率は最大25%ほどにとどまります。対してガス火力発電所などでは1600℃の燃焼ガスで発電しており、発電効率は60%を超えるでしょう。
しかし、焼却炉から蒸気として熱供給する場合は約90%の効率を実現できるため、発電より2倍以上のエネルギー効率を達成できます。化学工場などで使う蒸気は現在、化石燃料を燃やして作られているため、焼却熱を蒸気として供給することで、工場側の化石燃料使用量とCO2排出量の大幅な削減が可能です。