焼却炉の適切な温度設定で効率アップ
「焼却炉の温度管理って、どう設定すればいいの?」「温度が不安定で、このままで法令違反にならないか心配…」「燃料コストがかかりすぎているけど、温度設定で改善できるのかな?」そう思う方もいるかもしれません。
実は、焼却炉の適切な温度設定には、法令基準の遵守、廃棄物の種類に応じた調整、そして監視体制の構築、これら3つのポイントを押さえることが重要です。
この記事では、焼却炉の適切な温度設定の基準や温度管理による効率化の方法をわかりやすく解説します。
焼却炉の温度管理が重要な理由

焼却炉の運用において、温度管理は最も重要な管理項目です。適切な温度設定を行うことで、廃棄物の完全燃焼が実現でき、有害物質の発生を抑えながら効率的な処理が可能になります。
ここでは焼却炉における温度管理の重要性について解説します。
▼温度管理が焼却効率に与える影響
焼却炉の温度は、廃棄物の燃焼効率に直接的な影響を与えます。一般的に焼却炉は800度以上の高温で運転することが推奨されており、この温度範囲を維持することで廃棄物の完全燃焼が可能となります。
適切な温度管理により、ごみは重さが約10分の1、体積が約30分の1にまで減容されます。逆に温度が低すぎると不完全燃焼が発生し、燃え残りが増加するため、処理効率が低下してしまいます。
▼不適切な温度設定で発生するリスク
焼却炉の温度設定が不適切な場合、さまざまなリスクが発生します。最も深刻なのは法令違反による行政処分のリスクです。廃棄物処理法施行規則では燃焼ガス温度を800℃以上に保つことが義務付けられています。
温度が低すぎると不完全燃焼により一酸化炭素や煤塵が発生し、火災リスクも高まります。一方で温度が高すぎると窒素酸化物の排出増加や炉材の劣化が早まり、維持管理費用が増大する可能性もあるのです。
▼環境基準を満たすための温度管理
焼却炉の温度管理は、環境基準を遵守するための重要なポイントです。特にダイオキシン類の発生抑制において、温度管理は決定的な役割を果たします。平成9年の厚生省通知では、ダイオキシン類発生防止のために焼却温度850℃以上の維持が望ましいとされています。
高温での完全燃焼により有害物質の前駆物質が分解され、排出量を大幅に削減できるため、適切な温度管理が周辺環境への影響を最小限に抑えられるのです。
焼却炉の法定温度基準と推奨値

焼却炉の運用において、法定温度基準を正確に理解することは、施設管理者の責務です。日本では廃棄物処理法により明確な温度基準が定められており、これを下回ると法令違反となります。
ここでは焼却炉の法定温度基準と推奨値について解説します。
▼廃棄物処理法で定められた温度基準
廃棄物処理法施行規則第四条の五において、焼却施設の燃焼室中の燃焼ガス温度を摂氏800℃以上に保つことが法的に義務付けられています。これは一般廃棄物焼却施設の維持管理における最低限の技術基準であり、すべての焼却施設が遵守しなければなりません。この基準を下回る運転は法令違反となり、行政処分や施設の運転停止命令を受ける可能性があります。施設管理者は常時この温度を維持し、適切に記録することが求められます。
▼ダイオキシン類発生防止のための推奨温度
法定基準の800℃に対し、平成9年の厚生省通知では850℃以上の維持が望ましいとされています。これはダイオキシン類発生防止を目的とした推奨値です。ダイオキシン類は300℃から500℃程度の低温域で生成されやすく、高温での完全燃焼が発生抑制に効果的です。平成12年度以降に設置された一般廃棄物焼却施設の95.7%が850℃以上で運用されており、これが業界の実質的な標準となっています。環境への配慮と安全性を重視するなら、850℃以上での運転が推奨されます。
▼施設規模別の温度設定の違い
焼却炉の温度設定は施設の規模や炉の稼働方式によって若干の違いがあります。処理能力50t/日以上の大規模施設では、全連続炉が採用され、安定した850℃以上の運転が一般的です。
一方、処理能力50t/日未満の小規模施設では、準連続炉や機械化バッチ炉が使用され、温度管理がやや難しい場合があります。しかし規模に関わらず法定基準の800℃以上は必須であり、可能な限り850℃以上を目指すべきです。施設の特性に応じた適切な温度管理体制の構築が必要です。
焼却炉の適切な温度設定方法
焼却炉の温度を維持するためには、廃棄物の特性を理解し、適切な機器を活用することが不可欠です。温度設定は単に数値を決めるだけでなく、投入される廃棄物の種類や量、季節による変動なども考慮する必要があります。
ここでは焼却炉の適切な温度設定方法について解説します。
▼廃棄物の種類に応じた温度調整
焼却する廃棄物の種類によって、最適な温度設定は異なります。一般家庭ごみは水分量が多いため、初期段階では乾燥に時間がかかり、その後急激に温度が上昇する傾向があります。
産業廃棄物の場合は含まれる成分により発熱量が大きく異なるため、より慎重な温度管理が必要です。廃棄物の特性を事前に把握し、投入量やタイミングを調整することで、炉内温度を安定した範囲に保つことができます。
▼温度センサーと制御システムの活用
焼却炉の温度管理には、精度の高い温度センサーとコントローラーの導入が不可欠です。温度センサーは炉内の複数箇所に設置し、リアルタイムで温度を監視します。設定温度に達した際には自動的に燃焼を調整する制御システムにより、人為的なミスを防ぎ安定した運転が可能です。
▼燃焼条件の最適化ポイント
焼却炉の温度を維持するには、燃料と酸素の供給バランスをとることが重要です。燃焼調整システムを使用し、炉内への空気の流れを適切に制御することで、完全燃焼を促進し温度ムラを防ぎます。また、ごみピットでの撹拌により、投入するごみの質を均一にすることも効果的です。
温度管理による効率化とコスト削減
焼却炉の適切な温度管理は、法令遵守や環境保護だけでなく、経営面でも大きなメリットをもたらします。燃焼効率を向上させることで燃料コストを削減でき、設備を適切な温度で運用することで耐用年数を延ばすことも可能です。
ここでは温度管理による効率化とコスト削減について解説します。
▼燃焼効率向上による燃料コスト削減
適切な温度管理により焼却炉の燃焼効率が向上すると、補助燃料の使用量を大幅に削減することが可能です。完全燃焼が実現すれば、廃棄物自体が持つ熱エネルギーを最大限活用できるため、追加の燃料投入が最小限で済みます。
また、発生した高温排ガスをボイラで回収し蒸気として利用することで、施設内の電力や暖房に活用できます。
▼設備寿命延長のための温度管理
焼却炉を適正温度範囲内で運転することは、設備の寿命を延ばすことにつながります。過度な高温運転は耐火レンガや金属部品の劣化を早め、頻繁な修繕や交換が必要です。一方、低温運転では不完全燃焼によるタールやスラグの付着が発生し、清掃頻度が増加します。
適切な温度管理により、これらの問題を回避し、設備を長期間安定して使用できます。計画的なメンテナンスと組み合わせ、設備更新までの期間を延ばすことで、設備投資コストを抑制できるでしょう。
▼自動制御システム導入のメリット
自動温度調整システムやデータロギングシステムの導入は、初期投資が必要ですが長期的には大きなコスト削減効果をもたらします。24時間体制での人的監視が不要になり、人件費の削減が可能です。また、システムによる精密な温度管理により、燃料消費の最適化と安定した運転が実現できます。
さらに、蓄積されたデータを分析することで、運用改善のポイントを明確に把握することができます。中央制御室からの一元管理により、複数の焼却炉を効率的に運用することも可能です。
