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業界コラム

土壌汚染物質トリクロロエチレンの基準値と対策を解説

「過去に工場でトリクロロエチレンを使っていた」というだけで、多額の費用が発生するのではないか——そんな不安を抱えている土地所有者や担当者は少なくありません。

2021年4月、トリクロロエチレンに関する土壌の基準値が大幅に引き下げられました。改正前は適合していた土地が、新基準では対応が必要になるケースも出てきています。正しい知識がないまま放置すると、土地売買や再開発の場面で思わぬトラブルに発展する恐れがあります。

この記事では、トリクロロエチレンの性質や最新の基準値、調査から浄化までの具体的な手順をわかりやすく解説します。「何から始めればいいかわからない」という方でも、自社のリスクを正しく評価できるよう、ステップごとに整理しました。

読み終わる頃には、必要な調査の内容と費用を抑えるための浄化方法の選択肢が具体的に見えてくるはずです。

トリクロロエチレンによる土壌汚染の基礎知識

トリクロロエチレンは、一見すると「昔の話」のように感じるかもしれません。しかし、かつて大量に使われた工場跡地では、今でも汚染が残っているケースが多く確認されています。まずは、この物質の特性と使われ方を正確に理解することが、適切なリスク評価の出発点です。

金属洗浄(脱脂)で多用された第一種特定有害物質

トリクロロエチレンは、さまざまな有機物を溶かす性質と不燃性を兼ね備えた、無色透明の液体です。これらの特性から、金属製品製造業や機械器具製造業、半導体の製造工場において、機械部品や電子部品に付着した油を除去する洗浄剤として広く使われてきました。「幻の洗浄剤」とも呼ばれるほど、20世紀の製造業で重宝された物質です。

土壌汚染対策法では、トリクロロエチレンを「第一種特定有害物質」に分類しています。これは揮発性有機化合物(VOC)のカテゴリに属する12物質のうちの一つです。特定有害物質の使用施設を廃止した場合、土地所有者等には土壌汚染状況調査の実施が義務づけられます。また、現在もトリクロロエチレンを使用している業者は、水質汚濁防止法や下水道法に基づく特定施設として行政への届出が必要です。届出をしていれば、施設廃止時には土壌汚染対策法第3条による義務調査の対象となります。

「うちの工場は小規模だったから関係ない」と考えている方も、使用履歴がある場合は早めに確認することをおすすめします。使用量の多寡よりも、「使用していた事実」が法律上の義務の発生要件となるからです。

水より重く深部まで浸透しやすい物質特性

トリクロロエチレンの比重は約1.4で、水よりも重い物質です。この性質が、土壌汚染を深刻にする大きな要因になっています。

通常の水溶性汚染物質であれば、地表から地下へ浸透していく過程で土壌に吸着されたり、ある程度の深さで止まったりします。ところがトリクロロエチレンは、水を押しのけながら土壌の深部へと沈みこんでいく性質があります。地下水面よりも深い位置まで到達するケースも珍しくなく、調査の深度が浅いと汚染源を見逃してしまう危険性があります。

また、土壌への吸着性が弱いため、長期間にわたって地中に残留し続ける傾向があります。「工場を閉めて数十年たっているから、もう汚染は薄まっているはず」という考えは、残念ながら根拠がありません。

揮発性が高く地下水汚染を広げやすいリスク

水より重い性質と同時に、トリクロロエチレンは常温での揮発性も高い物質です。この二つの性質が組み合わさることで、汚染は縦にも横にも広がりやすくなります。

土壌中でのトリクロロエチレンは、地下水と混合しながら帯水層を横方向に移動します。汚染源から距離がある地点の地下水からも検出されることがあるのは、この流動性によるものです。さらに、地下水中のトリクロロエチレンが分解される過程では、1,2-ジクロロエチレンやクロロエチレンといった別の有害物質が生成されることもあります。

揮発性が高いという特性は、調査手法(土壌ガス調査)や浄化方法(土壌ガス吸引法)に活かせる一方で、調査をしなければ地下から建物内に蒸気が侵入するリスクもあります。この点も含めて、専門家による適切なリスク評価が重要です。

【2021年最新】トリクロロエチレンの基準値と法改正のポイント

2021年4月の基準改正は、トリクロロエチレンに関わる土地の評価を大きく変えた出来事です。改正の内容を正確に把握することが、自分の土地が現行基準に適合しているかどうかを判断する第一歩となります。

溶出基準・地下水基準が0.01mg/Lへ大幅強化

2021年4月1日、環境省は土壌汚染対策法施行規則を改正し、トリクロロエチレンの基準値を大幅に引き下げました。

改正前後の比較は以下のとおりです。

・土壌溶出量基準:0.03mg/L以下 → 0.01mg/L以下(3分の1に強化)
・地下水基準:0.03mg/L以下 → 0.01mg/L以下(同様に強化)

この改正は、水質の環境基準との整合性を図るために行われたものです。国際がん研究機関(IARC)がトリクロロエチレンを「人に対しておそらく発がん性がある」(グループ2A)に分類しており、健康リスクの観点からより厳格な管理が求められるようになりました。

0.01mg/Lという数値は、目に見えないほど微量です。「少し滲み出たくらいなら問題ないだろう」という感覚的な判断は通用しません。土壌調査の結果を数値で正確に確認することが不可欠です。

基準強化が土地売買や再開発に与える影響

基準値の引き下げは、土地の資産価値にも直結する問題です。

土地売買の場面では、売主は土壌汚染の有無について買主に対して説明する義務があります。調査の結果、新基準を超える汚染が発覚した場合、浄化費用の負担や価格交渉の難航、最悪の場合は契約の解除といった事態が生じることがあります。旧基準では適合していた土地であっても、新基準では「汚染あり」と判断される可能性がある点に注意が必要です。

再開発や用途変更を伴う土地の形質変更(3,000平方メートル以上)の場合は、都道府県知事への届出が義務となり、必要に応じて土壌調査の実施が求められます。工場跡地をマンションや商業施設として開発するケースでは、事前の調査なしに着工できない場面が増えています。

改正前に「適合」だった土地はどう扱うべきか

改正前に実施した調査で「基準値以下」という結果が出ていた土地の扱いは、多くの方が気になるポイントです。

法改正の経過措置として、施行前に土壌汚染対策法第3条(施設廃止に伴う調査)や第4条(届出義務)等の手続きを経た土地については、なお従前の基準を適用することが認められています。ただし、これはすべての過去の調査に一律に適用されるわけではありません。

経過措置の対象かどうかは、手続きのタイミングや内容によって異なります。「以前の調査で問題なかったはず」という認識のまま土地を売却しようとすると、買主側の調査で問題が浮上するリスクがあります。過去の調査結果と実施時期を確認したうえで、専門の調査機関に相談することをおすすめします。

トリクロロエチレンの土壌汚染調査から浄化までの流れ

実際に調査・浄化が必要になった場合、どのような手順で進めればいいのでしょうか。土壌汚染対策は「いきなり大規模な工事」ではなく、段階を踏んで進めていくものです。各ステップの内容を理解しておくことで、費用や期間の見通しも立てやすくなります。

ステップ1:使用履歴を確認する「地歴調査」

最初に行うのは、土地の過去の利用履歴を調べる「地歴調査」です。

地歴調査では、登記簿や住宅地図、航空写真などの資料をもとに、その土地でどのような事業が行われてきたかを調べます。トリクロロエチレンを使用する業種(金属加工、機械器具製造、半導体製造など)が過去に操業していた記録があれば、汚染のおそれがあると判断されます。

地歴調査の結果、汚染のおそれがあると認められた場合、次のステップ(土壌ガス調査)に進みます。逆に、使用履歴がなければその時点で調査を終了できるため、不必要なコストを避けることができます。まずは地歴を丁寧に洗い出すことが、全体のコスト管理にもつながります。

ステップ2:ガスの有無を調べる「土壌ガス調査」

地歴調査で汚染のおそれが認められた場合、次は「土壌ガス調査」を実施します。

トリクロロエチレンは揮発性が高い物質のため、土壌中に存在するとガス状になって地中に広がります。このガスを表層土壌からサンプリングして分析することで、汚染の有無をおおまかに把握することができます。

調査は一定間隔に設定した採取ポイントから土壌ガスを採取し、分析機関に送って濃度を測定する方法で行います。ボーリング調査に比べて費用が抑えられる点も特徴です。土壌ガス調査で汚染が検出された地点については、続くボーリング調査で詳細を確認します。

ステップ3:汚染範囲を特定する「ボーリング調査」

土壌ガス調査で汚染が確認された地点では、「ボーリング調査(土壌・地下水調査)」を行い、汚染の深さと範囲を特定します。

ボーリング調査では、地面に穴を掘って土壌サンプルを採取し、深さごとにトリクロロエチレンの濃度を分析します。同時に地下水の採取・分析も行い、地下水汚染の状況も確認します。

汚染が深部(地下10メートル以上など)に及んでいる場合、調査費用も上昇します。調査結果をもとに汚染の範囲が確定し、その後の浄化計画が策定されます。ある実例では、土壌ガス調査で検出された2か所でボーリング調査(深さ10メートル)を実施し、計画から報告書提出まで約2か月半で完了しています。

コストを抑えて解決する主な浄化対策

「汚染が発覚したら、すべて掘り返して搬出するしかない」と思い込んでいる方は少なくありません。しかし実際には、状況に応じてコストを抑えた浄化方法を選ぶ余地があります。ここでは代表的な3つの工法を比較しながら解説します。

掘削せずに浄化する「原位置浄化(バイオ・化学的酸化)」

「原位置浄化」とは、土壌を掘り起こさずに地中で直接浄化する方法の総称です。トリクロロエチレンの浄化で多く用いられるのが、バイオレメディエーション(微生物分解)と化学的酸化(還元分解)の2種類です。

バイオレメディエーションは、土壌中に元々存在する嫌気性細菌を栄養剤の注入によって増殖・活性化させ、トリクロロエチレンを無害な物質へと分解する方法です。稼働中の工場や建物の下にも対応でき、大規模な土木工事が不要なため、コストを大幅に抑えられる場合があります。ただし、汚染深度が深く(たとえば地下15メートル程度)、掘削では莫大な費用がかかるような現場でも適用できることが、この工法の大きなメリットです。

化学的酸化(還元分解)では、鉄粉などの薬剤を土壌中に注入してトリクロロエチレンを化学的に分解します。適用性試験で現地の土壌条件を確認したうえで工法を選定することが重要です。なお、原位置浄化は掘削除去と比べて浄化完了までの期間が長くなる点は念頭に置いておきましょう。

揮発性を利用した「土壌ガス吸引法」

トリクロロエチレンの高い揮発性を逆手に取った浄化方法が「土壌ガス吸引法」です。

地中に吸引井戸を設置し、真空ポンプで空気を引いてトリクロロエチレンを気化させて地上へ引き抜く方法です。引き抜いたガスは活性炭などで処理して大気放出します。主に不飽和帯(地下水面より上の部分)の汚染に有効で、地下水位が比較的浅い現場で多く採用されます。

掘削を伴わないため現場への影響が少なく、建物の下など重機が入りにくい場所でも対応しやすいのが特徴です。ただし、地下水が高い場所では揮発が起きにくく、効果が限定的になることがあります。現場の条件によって、バイオレメディエーションや化学的酸化と組み合わせて実施するケースもあります。

確実だが高コストな「掘削除去」との比較

掘削除去は、汚染土壌を重機で掘り出してダンプカーで場外搬出する工法です。確実性が高く、工期も比較的短いため、多くの現場で採用されています。

ただし、コスト面では他の工法と大きな差があります。一般的な費用の目安として1立方メートルあたり5〜10万円程度とされており、汚染範囲が広い・深い場合は総額が数千万円規模になることもあります。また、稼働中の事業所や建物が残っている場合には施工が困難で、建物の解体や事業の停止が必要になるケースもあります。

どの工法を選ぶかは、汚染の深度・範囲・物質の種類、現場の状況(建物の有無、事業継続の要否など)、そして予算のバランスで総合的に判断します。「掘削除去一択」ではなく、原位置浄化の適用可能性も含めて専門家に相談することで、無駄なコストを避けられる可能性があります。

土壌汚染が発覚した際の二次リスクと注意点

土壌汚染の調査・浄化に注力する一方で、周囲への対応や資産管理も並行して考える必要があります。汚染そのものへの対応を誤ると、経済的損失や法的トラブルに発展するリスクがあります。

近隣住民への説明と健康被害リスクへの配慮

土壌汚染が都道府県知事に報告され、指定区域として公示されると、周辺住民への説明が求められることがあります。

実際の事例では、汚染が判明した後に議員も含めた住民説明会を約1か月にわたって実施したケースがあります。住民への説明では、現状の汚染状況、健康リスクの有無、今後の浄化スケジュールなどを丁寧に伝えることが信頼回復につながります。

トリクロロエチレンの健康影響については、高濃度での長期的な摂取は肝臓や腎臓への障害を引き起こし、比較的低濃度でも頭痛やめまい、眠気などの神経系への影響が報告されています。住民の不安を煽ることなく、科学的なデータに基づいた誠実な説明が求められます。専門家や行政と連携しながら対応することが重要です。

土地価値の下落(評価損)と契約不適合責任

土壌汚染が判明した土地は、浄化費用の分だけでなく、心理的な要因も加わって市場価値が下がることがあります。「スティグマ(負の烙印)」とも呼ばれるこの評価損は、浄化後も残る場合があり、資産管理上の課題となります。

とくに注意が必要なのが、土地売買における契約不適合責任です。売主が土壌汚染の事実を知りながら告知しなかった場合、または知らずに売却した場合でも、後から汚染が発覚したときには契約の取り消しや損害賠償を求められるリスクがあります。

売却を検討している土地に過去のトリクロロエチレンの使用履歴がある場合は、売却前に自主的に調査を実施し、結果を正確に開示する姿勢が長期的なリスク回避につながります。「問題が出てから対処する」よりも、事前に把握して適切に開示するほうが、交渉も円滑に進みやすくなります。

信頼できる調査会社・浄化業者を見極めるポイント

土壌汚染の調査は、都道府県知事が指定した「指定調査機関」でなければ実施できません。これは土壌汚染対策のプロフェッショナルであることの証明でもあります。業者を選ぶ際は、まず指定調査機関の認定を受けているかどうかを確認しましょう。

また、調査と浄化を別々の業者に依頼すると、段取りの調整に時間がかかったり、二重の重機費用が発生したりすることがあります。両方を一括で対応できる業者であれば、解体用重機を調査や掘削に活用するなど、コストと工期の両面で有利になるケースがあります。

見積もりを比較する際は、価格だけでなく、どの工法を提案しているか、その理由は何か、過去の類似案件の実績はあるかといった点を確認することをおすすめします。「とにかく安い」業者よりも、現場の状況を丁寧に診断したうえで最適な工法を提案できる業者を選ぶことが、長い目で見た節約につながります。

まとめ

この記事では、トリクロロエチレンによる土壌汚染の性質・基準値・調査手順・浄化方法・二次リスクについて解説しました。

・トリクロロエチレンは金属洗浄で多用されてきた第一種特定有害物質で、水より重く深部まで浸透しやすい
・2021年4月に基準値が0.03mg/Lから0.01mg/Lへ大幅強化された
・改正前に適合だった土地でも、現行基準では対応が必要になる場合がある
・調査は「地歴調査→土壌ガス調査→ボーリング調査」の順で段階的に進める
・浄化方法は「原位置浄化・土壌ガス吸引法・掘削除去」があり、現場の状況に合わせて選択する
・汚染発覚後は近隣説明、契約不適合責任への備え、信頼できる業者の選定が重要

土壌汚染は「発覚してから慌てる」よりも、「事前に把握して適切に対処する」ほうが、費用も精神的な負担も小さくなります。使用履歴があるかどうかをまず確認し、不安な点があれば指定調査機関や専門家に相談することから始めてみてください。

正しい情報と適切な手順で進めれば、トリクロロエチレンによる土壌汚染問題は必ず解決できます。焦らず、一つひとつのステップを確実に踏んでいきましょう。

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