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業界コラム

ヒ素とは?土壌汚染対策法における基準値と自然由来の判定基準を解説

工場跡地の売却前調査や、相続した土地の調査でヒ素が検出され、「浄化に何千万円もかかるのでは」「取引が止まるのでは」と不安になる方は少なくありません。ただ、ヒ素は日本の地質にもともと広く含まれる元素で、検出されたからといって人為的な汚染とは限りません。土壌汚染対策法では、自然由来か人為由来かによって区域の指定内容も求められる措置も、結果として費用も変わります。この記事では、ヒ素の基準値、土壌や地下水の中での動き方、そして自然由来かどうかを見分けるポイントを、実務の流れに沿って整理します。

ヒ素とは?元素としての基本特性と自然由来・人為由来の違い

ヒ素(As、原子番号33)は、金属と非金属の中間的な性質を持つ半金属元素です。地殻中に広く分布し、火山活動や温泉、鉱床のある地域では特に濃度が高くなります。どのヒ素が問題になるのかを押さえておきましょう。

▼無機ヒ素と有機ヒ素の違い

ヒ素は、炭素と結合していない無機ヒ素と、炭素を含む有機ヒ素に大きく分かれます。毒性が強いのは無機ヒ素で、なかでも三価の亜ヒ酸(As(III))は五価のヒ酸(As(V))より毒性が高く、土の粒子に吸着されにくいため地下水へ移動しやすい性質があります。一方、魚介類に多いアルセノベタインなどの有機ヒ素は毒性が低いとされています。土壌汚染対策法で管理されるのは「ヒ素及びその化合物」で、実質的に問題となるのは無機ヒ素です。

▼自然由来のヒ素と人為由来のヒ素(鉱山跡地・工場排水・農薬等)の違い

自然由来のヒ素は、土壌や岩石にもともと含まれていたものです。日本は火山国で、海成堆積物(海底に堆積した粘土・シルト層)や火山性の地層が各地に分布しており、こうした地層ではヒ素濃度が相対的に高くなります。関東平野や大阪平野の沖積層、温泉地周辺などで、使用履歴のない土地からヒ素が出るのは珍しくありません。

対して人為由来のヒ素は、事業活動で持ち込まれたものです。主な発生源は次のとおりです。

  • 鉱山・製錬所の跡地(ヒ素は銅や金の鉱石に随伴する)
  • ガラス、顔料、半導体(ガリウムヒ素)などの製造工場とその排水
  • 木材防腐処理(CCA処理材)を扱っていた事業所
  • 過去に使用されたヒ素系農薬・殺鼠剤の保管・散布地
  • 廃棄物の不法投棄地

両者の違いは濃度の高低だけでは判断できません。濃度の分布パターン、地層との対応関係、土地利用履歴を組み合わせて判断していきます。

土壌汚染対策法における「第二種特定有害物質」としてのヒ素

ヒ素は、土壌汚染対策法の特定有害物質のうち「第二種特定有害物質(重金属等)」に分類されます。第二種は、地下水を通じて口に入る経路(溶出量)と、土や粉じんを直接口にする経路(含有量)の両方が想定されるため、2種類の基準が設定されているのが特徴です。第一種(揮発性有機化合物)や第三種(農薬等)との違いを含めて全体像を確認したい方は、特定有害物質全体の分類を整理した記事もあわせて読むと、自社の土地でどの調査項目が必要になるか判断しやすくなります。

▼土壌溶出量基準・土壌含有量基準の具体的な数値

ヒ素及びその化合物に定められている基準値は次のとおりです。

基準の種類 基準値 想定するリスク
土壌溶出量基準 0.01mg/L以下 地下水へ溶け出し、その地下水を飲用することによる摂取
土壌含有量基準 150mg/kg以下 土壌や粉じんを直接口にすることによる摂取
第二溶出量基準 0.3mg/L以下 汚染の程度が著しく、措置内容を左右する区分
地下水基準 0.01mg/L以下 実際の地下水の汚染状態の判定

つまずきやすいのが、溶出量基準0.01mg/Lという数値の小ささです。これは水道水質基準のヒ素と同じ水準で、毎日飲み続けても健康に影響が生じないことを前提に設定されています。土そのものの危険度というより地下水の飲用を想定した基準だと理解しておくと、検出イコール即危険という誤解を避けられます(出典:環境省「土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン」)。

▼基準値を超えた場合の区域指定(要措置区域・形質変更時要届出区域)

基準を超えると都道府県知事等が区域を指定しますが、指定は2種類あり意味合いが大きく異なります。

  • 要措置区域:基準超過に加え、飲用井戸があるなど健康被害が生じるおそれがある場合に指定されます。知事から措置を指示され、地下水の水質測定や封じ込め、場合によっては掘削除去が必要です。
  • 形質変更時要届出区域:基準は超過しているが摂取経路がなく、健康被害のおそれがない場合に指定されます。浄化は義務ではなく、掘削や造成をする際に事前届出が必要になります。

実際に指定される区域の多くは後者です。「基準超過=即座に高額な浄化工事」ではありません。自分の土地がどちらに該当しうるかを確認することが、無用な不安と過剰なコストを避ける第一歩になります。

ヒ素は土壌・地下水中でどう移動するのか

ヒ素は、他の重金属と比べて挙動が読みにくい物質です。同じ地層でも、掘削や地下水位の変動をきっかけに溶出量が変わることがあります。

▼酸化還元によって溶出しやすくなるしくみ

土壌中のヒ素は、通常は鉄やアルミニウムの水酸化物に吸着された状態で安定しています。ところが地下水位より下や有機物の多い地層など、酸素が乏しい還元的な環境では、吸着の受け皿だった鉄水酸化物そのものが溶け出し、抱えていたヒ素も一緒に水中へ放出されます。さらに還元環境では五価のヒ酸が三価の亜ヒ酸に変化し、吸着されにくいぶん地下水とともに移動しやすくなります。

含有量は高いのに溶出量は基準以下、あるいはその逆という一見矛盾した結果が出るのは、この化学的な背景によるものです。実務上の注意点は、掘削や盛土、地下水の揚水といった工事行為がこのバランスを動かしてしまうこと。工事前の調査で問題がなくても施工方法によって溶出量が変わりうるため、ヒ素が検出された土地では施工計画と一体で対策を検討する必要があります。

▼地下水基準との関係

ヒ素の地下水基準は0.01mg/Lで、土壌溶出量基準と同じ値です。要措置区域になるかどうかの分かれ目は、周辺に飲用井戸があるなど、実際に人が地下水を摂取する経路があるかどうかです。上水道が整備され飲用井戸がない地域であれば、基準超過があっても形質変更時要届出区域にとどまるケースが多くなります。そのため調査では、土壌だけでなく周辺の井戸利用状況や地下水の流向を確認することが欠かせません。

自然由来のヒ素汚染をどう見分けるか

ヒ素で最も判断が難しく、費用への影響も大きいのが、自然由来か人為由来かの見極めです。判定は単一の指標では行わず、濃度水準・分布・地質・履歴を突き合わせて総合的に判断します。物質を限定しない一般的な考え方や調査手順は物質を問わない自然由来汚染の判定基準や調査の手順を整理した記事で扱っているため、ここではヒ素に特有の見方に絞ります。

▼基準値の概ね10倍が一つの目安になる理由

環境省のガイドラインでは、自然由来と判断する際の目安の一つとして、基準に適合しない試料の濃度が「基準値の概ね10倍以内」に収まっているかが示されています。ヒ素なら土壌溶出量でおおむね0.1mg/L以内、含有量でおおむね1,500mg/kg以内が目安です。

この目安には理由があります。自然由来のヒ素は地層全体にほぼ均質に含まれるため濃度は基準値をやや超える程度で頭打ちになりやすい一方、事業活動で持ち込まれたヒ素は特定の場所に集中し、桁違いに高い値を示すことが多いからです。ただし10倍以内なら自動的に自然由来と認められるわけではなく、次の分布や地質の情報と組み合わせて初めて判断材料になります。

▼周辺のバックグラウンド濃度との比較

同じ地域・同じ地層で、汚染の影響を受けていない地点の濃度(バックグラウンド濃度)と比較するのが有効です。自然由来であれば敷地内のどの地点でも似た濃度が出て、深さ方向では特定の地層に対応して濃度が変化します。海成粘土層やシルト層で濃度が上がり、上下の砂層では下がるといった地層依存の傾向が典型です。

反対に人為由来では、タンクやピット、排水経路、資材置場などを中心に濃度が高く、離れるほど下がる同心円状の分布になりやすく、深さ方向でも表層付近にピークが現れます。この「面的な分布と深度分布の形」が判定の実質的な決め手になります。

▼化合物形態や地質・土地利用履歴の確認

あわせて確認したいのが次の3点です。

  • 地質情報:既存のボーリング柱状図、都道府県が公開する地質図や自然由来重金属の分布情報から、自然由来ヒ素の出やすい地層かを確認する。
  • 土地利用履歴:登記簿、旧版地形図、住宅地図、航空写真、過去の事業許可・届出資料で、ヒ素を扱う施設があったかを遡って調べる。
  • 共存物質の傾向:人為由来ではヒ素単独ではなく鉛やふっ素、シアンなども同時に検出されることが多く、その組み合わせが発生源の推定につながる。

これらを積み上げても白黒がつかないケースは実際にあります。その場合は追加のボーリング調査で深度方向のデータを補い、地層との対応関係を確かめるのが現実的です。迷う段階で自己判断せず、調査データを持って行政の担当部署や専門会社に相談したほうが結果的に近道になります。

自然由来と判定された場合、土壌汚染対策法上の扱いはどう変わるのか

自然由来と認められても基準超過という事実が消えるわけではなく、区域指定は行われます。ただし指定される区分と、その後に取りうる選択肢が変わります。

▼人為由来の場合との対応・費用の違い

自然由来と認められた土地は、形質変更時要届出区域のうち「自然由来特例区域」として扱われます。大きな違いは汚染土壌の取り扱いです。通常、指定区域から搬出する土壌は汚染土壌処理施設へ運ぶ必要がありますが、自然由来特例区域では同一の地層に由来する土壌について、一定の要件のもとで他の自然由来等形質変更時要届出区域へ移動させることが認められています。これは搬出・処理費用に直結する差です。

措置の内容も変わります。人為由来で汚染源が特定できる場合は掘削除去や原位置浄化が選択肢に入り、面積と深度によっては費用が大きく膨らみます。一方、自然由来で摂取経路がない場合は、舗装や盛土による被覆、地下水のモニタリングといった掘削を伴わない管理型の対応で足りることが多くなります。同じ第二種特定有害物質でも物質ごとに対策の勘所は異なるため、同じ第二種特定有害物質である六価クロムの基準値・対策事例を解説した記事と読み比べると、対策メニューの選び方のイメージがつかみやすくなります。

不動産取引の観点でも差が出ます。自然由来であることが調査で裏付けられ管理方法が明確なら、買主や金融機関への説明がしやすく、価格への影響も限定できます。逆に原因が不明なまま「ヒ素が出た」という事実だけが残ると、リスクが読めないことを理由に取引が停滞しがちです。

▼玄米やひじきに含まれるヒ素との違い

「ヒ素」で検索すると土壌汚染と食品の話が混在して出てきます。玄米やひじきの情報を目にして自分の土地の検出結果と結びつけて心配される方がいますが、この二つは評価の枠組みが別物です。

ひじきは無機ヒ素の割合が比較的高いことが知られていますが、厚生労働省は通常の食生活の範囲であれば健康リスクが高まるとは考えにくいとの見解を示しています。米は水を張った田で育ち還元環境になりやすいため土壌中のヒ素を吸収しやすい特性がありますが、平均的な摂取量で健康影響が生じる水準ではないとされています。

また農地のヒ素は、土壌汚染対策法ではなく農用地の土壌の汚染防止等に関する法律が適用され、別の基準・別の手続で管理されます。宅地や工場跡地の調査で使う0.01mg/Lという溶出量基準を、そのまま食品の安全性の議論に持ち込むことはできません。検出値を比べるときは、どの法律・どの経路を前提にした数値かを必ず確認してください(出典:厚生労働省・食品安全委員会の公表資料)。

土地のヒ素汚染が心配なときの相談の流れ

不安を減らす最短ルートは、いきなり大がかりな調査を発注することではなく、資料で分かる範囲から順に確認することです。費用の小さい段階から始めれば、必要のない調査を避けられます。

▼地歴調査でセルフチェックする方法

専門会社に依頼する前に、次の点は自分でも確認できます。

  • 登記簿謄本で過去の所有者と地目の変遷をたどる
  • 旧版地形図や住宅地図、国土地理院の過去の航空写真で、工場・鉱山・資材置場の痕跡がないか見る
  • 自治体が公開する指定区域の一覧や地図で、近隣に指定区域がないか調べる
  • 都道府県の自然由来重金属等の分布情報で、その地域の地質傾向を確認する
  • 敷地周辺に飲用井戸がないか確認する(要措置区域になるかの分かれ目になる)

ここまでで人為的な使用履歴が見当たらず、地域的に自然由来ヒ素が出やすい地質であれば、仮に検出されても自然由来の可能性が高いと当たりをつけられます。難しく感じるかもしれませんが、登記簿と航空写真を見るだけでも判断材料はかなり増えます。

▼土壌調査から専門会社への相談までの流れ

実際の調査は次の順序で進みます。

  1. 地歴調査(資料等調査):登記、地図、航空写真、行政保有資料、関係者ヒアリングから汚染のおそれの区分を整理する。
  2. 表層土壌調査:おそれの区分に応じて格子状に区画を切り、表層と深さ5〜50cmの土壌を採取し、溶出量・含有量を分析する。
  3. ボーリング調査:基準超過があった場合に、深さ方向の広がりと地層との対応、地下水の状況を確認する。自然由来かどうかの判断材料もここで揃う。
  4. 対策工事の設計・実施:区域指定の種別と土地の使い方に応じて、被覆、封じ込め、掘削除去などから選択する。

費用は面積・調査密度・地質条件で大きく変わりますが、地歴調査は比較的小さな負担で済み、掘削除去は土量に比例して膨らみます。調査費用や対策費の考え方、活用できる補助制度は重金属汚染がある土壌の調査費用と対策フロー、補助金活用を解説した記事で具体的に整理しています。

相談は早いほど選択肢が残ります。特に、有害物質使用特定施設の廃止時や3,000m²以上(現に有害物質使用特定施設がある土地では900m²以上)の土地の形質変更時には法律上の調査義務が生じるため、解体工事や売却のスケジュールを組む前に確認しておくと工程の手戻りを防げます。

よくある質問

この記事に関してよく寄せられる質問をまとめました。

▼土壌からヒ素が検出されたら、必ず浄化しなければなりませんか?

いいえ。基準を超えても、飲用井戸がないなど人が摂取する経路がなければ形質変更時要届出区域となり、浄化は義務ではありません。この場合は被覆や地下水モニタリングといった管理型の対応が中心です。浄化が求められるのは、健康被害のおそれがあるとして要措置区域に指定された場合です。

▼自然由来と人為由来では、費用はどのくらい違いますか?

面積・深度・地質で変わるため一概には言えませんが、差が生まれる要因ははっきりしています。人為由来では掘削除去や原位置浄化が必要になりやすく、搬出土壌は汚染土壌処理施設で処理しなければなりません。自然由来特例区域では一定の要件のもとで同一地層の土壌を他の自然由来等形質変更時要届出区域へ移動でき、掘削を伴わない被覆やモニタリングで足りることも多いため、総額を抑えられる可能性があります。

▼溶出量基準を超えていても、含有量基準は満たしていることがあるのはなぜですか?

測っているものが違うためです。含有量は土に含まれる総量、溶出量は水に溶け出す量を示します。ヒ素は酸化還元状態や吸着している鉄水酸化物の状態で溶けやすさが変わるため、総量が多くても溶け出しにくい場合、その逆の場合の両方が起こりえます。

▼相続した土地を売りたいのですが、調査は売却前と売却後のどちらで行うべきですか?

売却前をおすすめします。自然由来か人為由来か、どの区分に該当し、どんな管理が必要かを明らかにしておけば、買主への説明ができ価格交渉も落ち着いて進められます。引渡し後に判明すると、契約不適合責任を巡るトラブルに発展するリスクがあります。

まとめ

ヒ素は土壌汚染対策法上の第二種特定有害物質で、土壌溶出量基準0.01mg/L以下、土壌含有量基準150mg/kg以下が定められています。日本にはもともとヒ素を含む地層が広く分布しているため、検出が直ちに人為的な汚染を意味するわけではありません。重要なのは原因を特定し、自分の土地がどの区分に当たるのかを見極めることです。

  • ヒ素は溶出量0.01mg/L以下、含有量150mg/kg以下が基準。地下水基準も0.01mg/L
  • 基準超過でも摂取経路がなければ形質変更時要届出区域にとどまり、浄化義務は生じない
  • ヒ素は還元環境で溶け出しやすく、掘削や地下水位の変動で挙動が変わるため施工計画と一体で検討する
  • 自然由来の判定は、基準値の概ね10倍以内という目安に加え、濃度分布・地層との対応・土地利用履歴を総合して行う
  • 自然由来特例区域では土壌の取り扱いに特例があり、対応と費用の幅が変わる
  • 食品のヒ素とは適用される法律も評価の枠組みも異なるため、数値を混同しない

まずは登記簿と過去の航空写真で土地利用履歴をたどり、自治体の指定区域情報と地質情報を確認するところから始めてください。そのうえで調査が必要と判断されたら、地歴調査から段階的に進めれば、費用を抑えながら必要な範囲を見極められます。

エコ・テックは、建築物・プラントの解体からアスベスト対策、土壌汚染対策までを一貫して手がけてきました。地歴調査による当たりづけから土壌調査、区域指定への対応、解体工事と一体での対策設計まで全国で対応しています。「検出されたが、どう判断すればよいか分からない」という段階でも構いません。お手元の調査データや土地の情報をご用意のうえ、お気軽にご相談ください。状況を整理すれば、多くの場合、想定していたより現実的な選択肢が見つかります。

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