アスベストは非常に危険性の高い物質で、とても細かい繊維状でできた物質のため、呼吸器官を通って容易に肺へと侵入します。それが体内に蓄積すると呼吸困難などの障害を引き起こし、最悪死に至るケースもあるのです。アスベストが原因で死亡した事例も決して少なくはなく、訴訟が起こり社会問題にもなりました。

アスベストの危険性について

アスベストの繊維は、WHOの報告によると、じん肺、悪性中皮腫の原因になるといわれ、肺がんを起こす可能性があることが知られています。アスベストによる健康被害は、 アスベストを扱ってから長い年月を経て現れてきます。中皮腫は平均35年前後という長い潜伏期間の後発病することが多いといわれています。過去にアスベストを使用した建築物に携わった方や仕事を通してアスベストを扱っている方は、その作業方法にもよりますが、アスベストを扱う機会が多いことになりますので、定期的に健康診断を受けることをお勧めします。現在もなお仕事でアスベストを取り扱っている方の健康診断は、労働基準法により、事業主に実施義務があります。

アスベストに係る健康被害について

石綿を吸うことにより発生する疾病としては、主にアスベスト肺(石綿肺)、肺がん、悪性中皮腫があります。

①アスベスト肺

アスベストを取り扱う仕事等にてアスベストを含んだ埃を大量に吸い込んだことが原因でおこる、肺の繊維増殖性の変化をいいます。アスベスト肺については、仕事等で長期間多くのアスベストを吸った人がほとんどと言われています。

②肺がん

アスベストを吸い始めて2040年後に発症する肺の悪性腫瘍をいいます。大半は初期の方は無症状ですが、進行すると咳、痰に血が混じる、息切れなどの症状があらわれます。アスベスト肺や胸膜肥厚斑が見られる場合はアスベストによる肺がんと考えられます。特に喫煙者はリスクが相乗的に高くなります。

③悪性中皮腫

胸膜や腹膜などに発生する悪性腫瘍で、その原因のほとんどはアスベストと言われています。多くの場合、最初は無症状ですが、進行すると息切れ、胸の痛み、咳などの症状があらわれます。最も多いのは胸膜にできる中皮腫です。アスベストを吸ってから3050年後に発症することが多いです。アスベスト肺をおこさない程度のアスベストを吸ってもおこることがあります。
労働基準監督署の認定を受け、業務上疾病とされると、労災保険で治療できます。

アスベストを吸い込む可能性のある場所について

①職業暴露

アスベストに関する健康被害の報告の多くは職場にてアスベストを取り扱っていたことが原因です。アスベスト疾患である被害者が1か所のアスベスト粉じん職場でアスベストに暴露されていたことが明らかな場合は,被害発生の原因が特定されやすく因果関係は問題にはなりません。被害者が複数のアスベスト関連職場に勤務した経験がある場合だと証明が難しくなります。

②家族暴露

アスベストを取り扱う職場で働く人の家庭にての健康被害報告も多く寄せられています。アスベストが付着した作業着等により、家庭内にアスベストが飛散し、一緒に暮らす家族が二次被害を被るといったことは稀ではありません。アスベストを使用した現場から家族が帰宅するような場合には,同居の家族が,自らはアスベストに携わる職場で働いていなくとも,間接的にアスベスト粉じんにおかされる危険性があります。

③環境暴露

アスベスト製品を製造する工場から飛散したアスベスト粉じんが周囲の住民に健康被害をもたらすことがあります。過去にアスベストを使用して建設された建物等を解体やリニューアルする際にアスベストが飛散します。適切な管理と作業を行っていない場合、その工事によってアスベストが飛散し、周辺の住民等に健康被害をもたらします。

アスベストに関する健康被害、事件について

アスベストに関する事件で特に知られているものが、「クボタ・ショック」です。平成17年(2005年)629日にアスベストの危険性が社会に露見する出来事が起こりました。大手機械メーカーであるクボタが、アスベストを取り扱う工場で働いていた社員や退職者、請負会社の従業員、地域住民の間で、中皮腫など石綿関連疾患の患者が多数発生し、合計79人が死亡、現在療養中の退職者も18人に及ぶことを発表しました。この出来事を「クボタ・ショック」といいます。クボタ・ショック前は、アスベストが肺がんなどを引き起こし、死に至らしめるものであることは、社会の中でさほど浸透していませんでした。しかし、クボタ・ショックを受けて、実際にアスベストを取り扱っていた労働者だけでなく、周辺住民にも被害が及ぶことが明らかになり、アスベスト禁止の風潮がより強まることになりました。

ミサワリゾート事件

ミサワリゾートは、アスベストによる健康被害について、過去に12人の元従業員が死亡していたことを明らかにしました。それによると、現在のリゾート業に業種転換する以前の「日本エタニットパイプ」当時、1985年までに閉鎖された大宮や高松、鳥栖の3工場で、肺ガンや中皮腫により工場勤務だった元従業員12人が死亡、16人が治療を受けたとしています。同社は石綿管の製造・販売は完全に終了し、疾病者への補償も済んでいるとしています。

札幌国際観光ホテル事件

本件の原告は、昭和39年からホテルでボイラー担当の設備係として就労していた労働者の遺族となります。労働者は、平成13年になって体調が悪化して入院し、同年中にホテルでの就労により悪性胸膜中皮腫に罹患したことを理由として労災認定を受けました。その後の平成14年に労働者が死亡したため、労働者の遺族がホテルの運営会社に対して損害賠償請求を行いました。原審の札幌地裁は、「規制権限を有する国が何らの対策も講じていない中、民間企業が国の対策をも上回る対策を先んじてとらなければならない根拠はない」として、被告会社の責任を否定しました。これに対して札幌高裁は、すでに労働安全衛生法などによって規制がなされ、その対象に被告会社も含まれていたことを指摘しました。そのうえで、被告会社の安全配慮義務違反を認定し、原告に対して約3300万円の損害賠償を命じました。

日航インターナショナル羽田事件

本件の原告は、昭和30年から昭和60年までの間、航空機エンジン部品の溶接作業などに従事していた労働者の遺族です。溶接作業を行うに当たり断熱材・保湿剤の中に使用されていたアスベストに長期間晒された後、被災労働者は平成17年に原発性肺がんと診断され、平成18年に死亡しました。労働基準監督署長は労災認定にあたって、被災労働者の肺がんが業務上のアスベスト曝露に起因するものとは認めず、申請を棄却しました。これに対して東京地裁は、少なくとも14年間にわたる石綿曝露作業への従事期間が認められること、ヘルシンキ基準を超える石綿繊維数が肺内に認められること、他に肺がんの発症原因となり得る要因が窺われないことを指摘し、肺がんの業務起因性を認めなかった労災保険給付の不支給処分を違法と判示しました。

アスベストを使用する建設業務に従事していた元労働者等と、その御遺族の方が、アスベストによる健康被害を被ったのは、国が規制権限を適切に行使しなかったからであるとされています。国家賠償法に基づく損害賠償を請求した訴訟(建設アスベスト訴訟)について、令和2年1214日以降、最高裁判所が国の上告受理申立てを受理しないとの決定を行ったことにより、国の責任を一部認めた高裁判決が確定するとともに、令和3年5月17日の最高裁判決において、国敗訴の判決が言い渡されました。