土壌ガス調査の進め方と費用相場を解説 基準値や採取の手順とは
「土壌ガス調査が必要と言われたが、何をどう進めればいいのかわからない」——そう感じている土地所有者や担当者の方は少なくありません。
土壌ガス調査は、土壌汚染対策法に基づいて実施される調査の一つです。有害物質の使用履歴がある土地では、適切な調査を経なければ売買や開発が難しくなるケースもあります。「手続きが複雑そう」「費用がどれくらいかかるかわからない」といった不安を抱える方もいるでしょう。
この記事では、土壌ガス調査の目的から具体的な手順、費用の相場、そして調査会社の選び方まで、一通りの流れを整理して解説します。
読み終わるころには、調査のイメージが具体的になり、次のステップ(業者への相談・見積もり依頼)をスムーズに進められるようになるはずです。
土壌ガス調査とは?目的と対象となる有害物質

土壌ガス調査は、土地の地中に存在するガス(気体)を採取・分析し、有害物質による汚染の有無を確認する調査です。汚染の広がりを面的にスクリーニングできるため、本格的なボーリング調査(掘削調査)の前段階として活用されることが多くあります。
▼第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)が対象
土壌ガス調査の対象となるのは、第一種特定有害物質と呼ばれる揮発性有機化合物(VOC)です。揮発性が高く、地中で気体として広がりやすいという性質から、ガスを採取して分析する手法が有効です。
具体的には、以下のような物質が対象となります。
・テトラクロロエチレン(ドライクリーニング業などで使用)
・トリクロロエチレン(金属の洗浄などに使用)
・ベンゼン(ガソリンに含まれる成分)
・クロロエチレン(ビニール系物質の製造などに使用)
・その他、1,1-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロエチレンなど全12項目
なお、テトラクロロエチレンを調査する場合、その分解生成物(トリクロロエチレン、各種ジクロロエチレンなど)も合わせて分析することが義務付けられています。
▼土壌汚染対策法に基づく調査の役割
土壌ガス調査は、土壌汚染対策法(以下、土対法)に基づく「土壌汚染状況調査」の一環として実施されます。主な実施タイミングは次の3つです。
・有害物質使用特定施設を廃止するとき(法第3条)
・都道府県知事から調査命令が出たとき(法第4条)
・一定規模以上の土地の形質変更を届け出たとき(法第5条)
また、土地の売買や不動産担保設定の場面で、法的義務によらない自主調査として実施されるケースも多くあります。一般社団法人土壌環境センターの調査(令和2年度)によれば、土壌調査全体のうち8割以上が自主調査によるものです。
土壌ガス調査は、いわば汚染の有無を効率よく面的に確認するためのファーストステップ。この調査で異常が検出されなければ、その時点で一定の安心感が得られます。逆に何らかの物質が検出された場合は、次の詳細調査(ボーリング調査)へと進むことになります。
土壌ガス調査の公定法と具体的な手順
土壌ガス調査は、「土壌ガス調査に係る採取及び測定の方法を定める件(平成15年環境省告示第16号)」に従って実施されます。調査方法が法令で定められているため、手順を正しく理解しておくことが重要です。ここでは4つのステップに分けて解説します。
▼ステップ1:調査地点の選定(10m格子の設定)
土壌ガス調査では、対象地を30m×30m(900㎡)のメッシュで区切り、その中をさらに10m×10m(100㎡)の格子状に分割して調査地点を設定します。
汚染のおそれが低い土地であれば、900㎡の範囲内で5地点を選定してガスを採取し、それらを均等に混合した上で1検体として分析します。汚染のおそれが高い場合は採取地点を増やして調査精度を上げます。
対象地が30m×30mに収まらない広い土地の場合は、メッシュの数を増やして対応します。面積が大きくなるほど、調査地点数・費用ともに増加します。
▼ステップ2:穿孔(せんこう)とアスファルトへの対応
ガスを採取するには、まず地面に孔を開ける「穿孔(せんこう)」という作業が必要です。環境省告示第16号では、直径15〜30mm程度、深さ0.8〜1mの孔を鉄棒などで打ち込む方法が規定されています。
地表がアスファルトやコンクリートで覆われている場合は、コアカッターやハンマードリルなどの機器で舗装面に穴を開けてから穿孔します。この際、舗装の切断・削孔にかかる手間と復旧費用が別途発生するため、注意が必要です。
穿孔後は採取管を設置し、30分程度置いてから地中のガスが管内に集まるのを待ちます。この「静置時間」は、安定したサンプルを採取するために欠かせないステップです。
▼ステップ3:ガスの採取・捕集方法
環境省告示第16号に規定されている採取方法には、主に以下の4種類があります。
・捕集バッグ法(テドラーバックへの採取):最も一般的な手法
・減圧捕集瓶法
・減圧捕集瓶を用いた食塩水置換法
・捕集濃縮法(捕集濃縮管への吸着)
現場では減圧箱(吸引箱)を使ってポンプで土中のガスを吸引し、テドラーバックと呼ばれる専用の袋に封入するケースが多く採用されています。採取した試料は、分析機関に運搬するまで適切に保管・管理されます。
▼ステップ4:指定調査機関による分析
採取した土壌ガスの分析は、都道府県知事が指定する「指定調査機関」が実施します。指定調査機関は環境省の定める基準を満たした機関であり、分析精度や報告書の形式についても一定の水準が担保されています。
分析結果が出るまでの期間は、一般的に採取後2週間程度です。分析項目は対象物質によって異なりますが、第一種特定有害物質を広く対象とする場合は全12項目を測定します。結果は数値データとしてまとめられ、行政への報告書作成に使用されます。
土壌ガス調査の基準値と判定後の流れ
分析結果が出たら、次は判定の段階です。土壌ガス調査には厳密な「基準値」があるわけではなく、「定量下限値」と呼ばれる検出の閾値が設けられています。この定量下限値を超えた物質が検出された場合、次の調査ステップへ移行します。
▼基準値を超過した場合は「詳細調査」へ移行
土壌ガス調査の定量下限値は、ベンゼンが0.05volppm以下、その他の物質が0.1volppm以下と定められています。分析結果がこの値を超えた場合、「汚染のおそれあり」と判断され、ボーリング調査(詳細調査)へ進みます。
土壌ガスで何らかの物質が検出されても、それは「ガス中に物質が存在する」ことを示すにとどまります。実際の土壌や地下水が法定基準を超えているかどうかは、ボーリングによって土壌を採取・分析してはじめて確定します。
土壌ガス調査の有効範囲はおおむね900㎡とされており、調査地点の周囲の汚染状況も拾い上げる可能性があります。近隣地から漂ってきたガスが検出されるケースもあるため、検出された場合も冷静に次のステップを判断することが大切です。
▼ボーリング調査(土壌溶出量調査)との違い
土壌ガス調査とボーリング調査は、しばしば混同されますが、目的と手法が異なります。
土壌ガス調査は、地表付近の気体を採取して「汚染の可能性」をスクリーニングするための面的な調査です。掘削を伴わないため、比較的短期間・低コストで広いエリアをカバーできます。
一方、ボーリング調査は実際に土壌を掘削して採取し、「土壌溶出量基準」や「土壌含有量基準」への適合状況を判定する調査です。コストは1地点あたり20万〜80万円程度と高くなりますが、汚染の深度や範囲を具体的に把握できます。
土壌汚染対策法の調査フローでは、土壌ガス調査→ボーリング調査という段階的な進め方が原則です。いきなりボーリングから始めるのではなく、まず土壌ガス調査で汚染の有無を面的に確認するのが、コスト・効率の両面から合理的です。
土壌ガス調査にかかる費用の相場
費用は土地の面積・形状・状況によって大きく変動します。あらかじめ相場感を把握しておくことで、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。
▼調査地点数や地質によって変動する費用項目
土壌ガス調査(表層土壌調査を含む)の費用相場は、900㎡あたり20万〜60万円程度です。東京・大阪近郊で自主調査を行う場合、900㎡以内で約20万〜35万円、1,800㎡以内で約45万〜60万円が目安とされています。
費用に影響する主な要因は以下の通りです。
・対象地の面積と形状(不整形な土地はメッシュ設定が複雑になる)
・特定有害物質の使用履歴の有無(履歴があれば分析項目が増える)
・分析項目の数(全12項目か、特定物質のみかで費用が変わる)
・地表の被覆状況(更地か、コンクリート・アスファルトがあるか)
汚染のおそれが低い更地であれば、1区画(900㎡)あたりの現地作業は1日程度で完了することが多いです。分析期間を加えると、採取から結果報告まで2〜3週間を見ておくのが一般的です。
▼アスファルト復旧など見落としがちな追加コスト
地面がアスファルトやコンクリートで覆われている場合は、穿孔のためにコアカッターやハンマードリルで舗装面を削孔する必要があります。この作業費に加えて、調査後の舗装復旧費用も発生します。
舗装の切断・復旧は1か所あたりのコストが小さく見えても、地点数が多くなれば全体的な費用に影響します。見積もりを取る際には、削孔費用と復旧費用が含まれているかどうかを必ず確認しましょう。
また、土地の形状が複雑で測量が難しい場合は、正確な見積もりのために地積測量図を用意しておくとスムーズです。現地確認なしに概算のみで話を進めると、後から追加費用が発生するケースがあります。
失敗しない調査会社の選び方と注意点
土壌ガス調査は、指定調査機関に依頼することが法令上の要件となっています。どの会社に依頼するかによって、調査の質や行政対応のスムーズさが変わることもあります。
▼行政報告までスムーズに進めるためのポイント
調査会社を選ぶ際には、以下のポイントを確認することをおすすめします。
・都道府県知事の指定を受けた「指定調査機関」であること
・調査計画から現場管理・報告書作成まで一貫して対応できること
・行政への届出・報告書提出の経験が豊富なこと
・地元エリアの案件実績があること(地質や行政手続きへの精通度が高い)
複数社から見積もりを取ることも有効です。価格だけでなく、調査計画書の内容・担当者の説明のわかりやすさ・対応スピードなどを総合的に判断しましょう。
なお、費用が著しく安い場合は、調査の質や分析精度に疑問が生じることもあります。土壌汚染対策法に基づく調査は行政への報告書提出を伴うため、法的要件を満たした正確な調査が求められます。価格だけを判断基準にするのは避けたほうが無難です。
▼土地取引のスケジュールに与える影響
土地の売買や開発を予定している場合、土壌ガス調査のスケジュールが全体の工程に影響することがあります。
土壌ガス調査の結果が出るまでに採取後2週間程度かかります。さらに基準超過が判明してボーリング調査に移行した場合、詳細調査・報告書作成・行政との協議まで含めると、数ヶ月単位の期間が必要になることも珍しくありません。
土地取引において売買契約のスケジュールが決まっている場合は、早めに調査を着手することが重要です。「契約直前に調査を始めたら、結果が出るまで引き渡しが遅れた」というトラブルを避けるためにも、できるだけ余裕を持って調査会社に相談することをおすすめします。
また、調査結果によっては行政による「要措置区域」や「形質変更時要届出区域」への指定が行われる場合もあります。土地利用に制約が生じる可能性があるため、売買価格の交渉や取引条件にも影響する点を念頭に置いておく必要があります。
まとめ
土壌ガス調査は、第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)による土壌汚染の有無を面的・効率的にスクリーニングするための調査です。土壌汚染対策法に基づく調査フローの中では、ボーリング調査に進む前段階の重要なステップに位置します。
この記事で解説した主なポイントをまとめると、以下の通りです。
・対象物質は揮発性有機化合物(第一種特定有害物質)で、全12項目が分析対象
・調査は環境省告示第16号の公定法に従い、10m格子で地点選定→穿孔→採取→指定機関での分析という流れで進む
・地表がアスファルト等の場合は削孔と復旧費用が追加される
・費用相場は900㎡あたり20万〜60万円程度。面積・分析項目・地表状況によって変動する
・定量下限値を超えた物質が検出された場合は、ボーリング調査(詳細調査)へ移行する
・調査会社は指定調査機関であることを確認し、行政報告の実績も含めて複数社を比較する
「まず何から動けばいいか」迷ったときは、指定調査機関に問い合わせて現地の状況を伝えるところから始めてみてください。地積測量図を手元に用意しておくと、より正確な見積もりを得やすくなります。
法的リスクを避けながら土地を安全に活用するために、正確な情報をもとに一歩ずつ確実に進めていきましょう。
