PCB(ポリ塩化ビフェニル)とは?ダイオキシン類との関係と規制の経緯
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、ビフェニルという物質に塩素が結合してできた人工の有機塩素化合物です。そのうち平面に近い構造をとる「コプラナーPCB」は毒性がダイオキシンに似ているため、法律上もダイオキシン類として扱われています。
かつてトランスやコンデンサー、蛍光灯の安定器などに広く使われたことから、古いビルや工場を解体・売却・相続する場面で名前が出てきやすい物質です。なお、電子機器の「プリント基板(PCB)」とはまったく別のものを指します。「自分の建物に関係があるのか」「ダイオキシンやアスベストと何が違うのか」と戸惑う方も多いでしょう。本記事では、環境省・経済産業省の公表情報をもとに、PCBの定義、ダイオキシン類との関係、規制の経緯に絞って整理しました。ダイオキシンの発生源や健康影響、対策の詳細は別の記事で扱っています。
PCB(ポリ塩化ビフェニル)とは

まずはPCBがどんな物質で、なぜ今も処分が求められているのかを押さえておきましょう。
▼PCBの定義と性質
PCBは「Poly Chlorinated Biphenyl」の略で、日本語ではポリ塩化ビフェニルと呼ばれます。2つのベンゼン環がつながったビフェニルに、1〜10個の塩素が結合した化合物の総称です。塩素の数や結合する位置の違いによって、理論上209種類の異性体が存在します。
工業製品として重宝された理由は、次のような性質にあります。
- 燃えにくく、熱に強い
- 電気を通しにくい(絶縁性が高い)
- 化学的に安定していて分解されにくい
- 油に溶けやすく、水には溶けにくい
ただし、この「分解されにくく油に溶けやすい」性質は、環境中に長く残り、生き物の脂肪に蓄積しやすいという裏返しでもあります。便利さと有害性が同じ性質から来ている点が、PCB問題の根っこにあるといえます。
▼プリント基板(PCB)とは別のもの
「PCB」で検索すると、電子回路を載せる板である「プリント基板(Printed Circuit Board)」の情報も多く出てきます。略称が同じなだけで、化学物質のPCBとは無関係です。本記事で扱うのは、環境規制の対象になっている化学物質のPCB(ポリ塩化ビフェニル)のほうです。
▼なぜ処分が必要とされているのか
PCBは1960年代末に食品への混入事故で健康被害を引き起こし、1970年代前半に製造が止められました。ところが、すでに出回っていた電気機器などは長く使われ続け、使用済みのものも処理施設が整わないまま事業者のもとで保管されてきました。
長期保管の間に紛失や漏えいが起きると、環境汚染につながるおそれがあります。そこで国が処理の仕組みと期限を定め、残っているPCBを確実に無害化するよう求めているのが現在の状況です。
PCBはどんな製品に使われていたのか
PCBは燃えにくさと絶縁性を活かして、電気機器を中心に幅広い製品に使われました。古い建物で見つかりやすいものを中心に紹介します。
▼電気機器(トランス・コンデンサー・安定器)
代表的なのは、ビルや工場の受変電設備にある高圧トランス(変圧器)と高圧コンデンサーです。内部の絶縁油としてPCBが使われていました。
身近なところでは、蛍光灯や水銀灯の安定器にも小型のコンデンサーが組み込まれており、そこにPCBが含まれている場合があります。経済産業省・環境省の資料では、昭和32年(1957年)1月から昭和47年(1972年)8月までに製造された業務用・施設用の照明器具の安定器が、PCB使用の可能性があるものとして挙げられています。学校や事務所、工場などで古い照明器具を使い続けていたケースでは、天井裏や倉庫から見つかることも珍しくありません。
▼感圧複写紙・塗料・シーリング材など
電気機器以外にも、次のような用途がありました。
- 感圧複写紙(いわゆるノーカーボン紙)
- 工場の熱交換器などで使う熱媒体
- 塗料・インキの添加剤
- 建物の目地などに使われたシーリング材
建材ではシーリング材や塗膜にPCBが含まれる例が確認されています。建物の解体や改修では、電気設備だけでなく建材側にも目を向ける必要があるでしょう。
PCBとダイオキシン類の関係
PCBとダイオキシンは別々の物質として語られがちですが、一部は法律上同じグループに入っています。ここでは関係の結論と、混同しやすい物質との違いを整理します。
▼コプラナーPCBはダイオキシン類に含まれる
PCBの209種類の異性体のうち、2つのベンゼン環が同じ平面上に並びやすい構造のものを「コプラナーPCB(ダイオキシン様PCB)」と呼びます。コプラナーPCBは、ダイオキシンとよく似た仕組みで毒性を示すことがわかっています。
このため、平成11年(1999年)に制定されたダイオキシン類対策特別措置法では、次の3つをまとめて「ダイオキシン類」と定義しました。
- ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)
- ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)
- コプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)
いずれも塩素を含む有機化合物で、構造と毒性の現れ方が似ている点が共通しています。塩素化合物とダイオキシンのつながりについてはダイオキシンと塩素化合物の関係で、法律の中身はダイオキシン類対策特別措置法の内容で詳しく取り上げています。
整理すると、「PCBの一部(コプラナーPCB)がダイオキシン類に含まれる」という関係です。PCB全体がダイオキシン類なのではなく、PCBの廃棄物や機器はPCB特措法などで別に管理されています。
▼ダイオキシン・PCB・アスベストの違い
解体や土地取引の場面では、ダイオキシン・PCB・アスベストがまとめて話題に上ることがあります。違いを表にまとめました。
| 項目 | ダイオキシン類 | PCB | アスベスト(石綿) |
|---|---|---|---|
| 物質の種類 | 有機塩素化合物(PCDD・PCDF・コプラナーPCB) | 人工の有機塩素化合物 | 天然の繊維状鉱物 |
| 主な由来 | 燃焼などで意図せず生成 | 工業製品として意図的に製造 | 天然鉱物を採掘して利用 |
| 建物で問題になる場所 | 焼却炉・煙突などの付着物 | トランス・コンデンサー・安定器・シーリング材など | 吹付け材・保温材・成形板など |
| 主な法令 | ダイオキシン類対策特別措置法 | PCB特措法・化審法 | 大気汚染防止法・石綿障害予防規則 |
3つとも「古い建物を壊す・手放すときに確認が必要」という点は共通していますが、調べる場所も根拠となる法令も異なります。
PCBが規制されるまでの経緯
PCBは日本でも大量に製造・使用されたあと、事件をきっかけに製造中止となり、処分の仕組みづくりに長い時間がかかりました。流れを順に追っていきます。
▼カネミ油症事件から製造中止まで
国内では昭和29年(1954年)ごろからPCBの製造が始まり、環境省によると累計で約5万9千トンが製造されました。転機となったのが、昭和43年(1968年)に西日本で発生したカネミ油症事件です。食用の米ぬか油の製造工程で熱媒体として使われていたPCBが油に混入し、それを口にした多くの人に皮膚の色素沈着や吹き出物などの症状が出ました。のちに、加熱でPCBから生じたダイオキシン類(PCDF)も原因に関わっていたことがわかっています。
事件を受けて、昭和47年(1972年)に行政指導で製造が中止され、回収が指示されました。翌昭和48年(1973年)には化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)が制定され、昭和49年(1974年)にPCBは第一種特定化学物質に指定されています。これにより、製造・輸入・新たな使用が原則として禁止されました。
▼PCB特措法の制定と2016年の改正
製造は止まったものの、使用中の機器や回収した廃棄物を処理する施設は、建設候補地の理解が得られず、約30年にわたってほとんど処理が進みませんでした。その間、保管中に紛失したり行方不明になったりした機器も出ています。
状況を打開するため、平成13年(2001年)に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」が制定されました。国が出資する中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO、当時は日本環境安全事業)が全国5か所に処理施設を整え、高濃度PCB廃棄物の処理が本格的に始まっています。
その後も期限内の処理完了が危ぶまれたことから、平成28年(2016年)に法律が改正されました。主な内容は次のとおりです。
- 地域・品目ごとに処分期間を定め、期間内の処分を義務づけた
- 使用中の高濃度PCB使用製品も、期限までに廃棄することを義務づけた
- 都道府県知事が報告徴収や立入検査を行い、改善命令や行政代執行ができるようにした
▼年表で見るPCB規制の流れ
ここまでの流れを年表にまとめました。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1954年(昭和29年)ごろ | 国内でPCBの製造が始まる |
| 1968年(昭和43年) | カネミ油症事件が発生 |
| 1972年(昭和47年) | 行政指導により製造中止・回収指示 |
| 1973年(昭和48年) | 化審法が制定される |
| 1974年(昭和49年) | 第一種特定化学物質に指定され、製造・輸入・新規使用が原則禁止 |
| 1999年(平成11年) | ダイオキシン類対策特別措置法でコプラナーPCBがダイオキシン類に位置づけられる |
| 2001年(平成13年) | PCB特措法が制定される |
| 2002年(平成14年) | PCBを使っていないはずの電気機器の絶縁油に、微量のPCBが混入していることが判明 |
| 2016年(平成28年) | PCB特措法が改正され、処分期間と使用製品の廃棄が義務化 |
| 2018年〜2023年 | 高濃度PCB廃棄物の処分期間が地域・品目ごとに順次終了 |
| 2027年(令和9年)3月31日 | 低濃度PCB廃棄物の処分期間の終了 |
高濃度PCBと低濃度PCBの違い
PCB廃棄物は、含まれるPCBの濃度によって「高濃度」と「低濃度」に分けられ、処理する場所も期限も異なります。
高濃度PCB廃棄物は、主にPCBを絶縁油として意図的に使った機器で、目安としてPCB濃度が0.5%(5,000mg/kg)を超えるものです。JESCOの施設で処理されてきました。
低濃度PCB廃棄物は、PCBを使っていないはずの機器に微量のPCBが混入していたものなどで、濃度は0.5mg/kgを超え5,000mg/kg以下が目安です。製造時の絶縁油の再生利用などが原因と考えられており、1990年ごろまでに製造された変圧器などに混入の可能性があるとされています。こちらは、環境大臣の認定を受けた無害化処理施設や、都道府県知事の許可を受けた処理施設で処理します。
なお、安定器や汚染物などは区分の基準が異なる場合があります。正確な判断は分析結果や環境省のガイドラインをもとに行いましょう。
▼処分期限の考え方
高濃度PCB廃棄物の処分期間は、JESCOの処理施設がある地域ごと、またトランス・コンデンサーと安定器・汚染物といった品目ごとに設定されていました。2018年3月末から2023年3月末にかけて順次期限を迎え、現在はすべての地域で終了しています。
低濃度PCB廃棄物の処分期間は、全国一律で2027年(令和9年)3月31日までです。期限まで残り時間が限られているため、該当しそうな機器がある場合は早めに分析と処理の手配を進めましょう。
▼期限後に見つかった場合の扱い
処分期間を過ぎてから、倉庫や天井裏で高濃度PCBの安定器などが見つかるケースも報告されています。期限後だからといって放置したり、一般のごみとして捨てたりするのは避けてください。
見つけた場合は、建物がある都道府県・政令市のPCB担当窓口に連絡し、保管方法と処分の進め方について指示を受けるのが基本です。期限後の受け入れ体制は時期によって変わることがあるため、環境省や自治体の最新情報もあわせて確認しましょう。
解体・売却・相続の前に確認したいこと
PCBは、建物を解体したり手放したりする前に存在を把握しておくと、工期の遅れや取引後のトラブルを防ぎやすくなります。自分で確認できる範囲と、専門業者に任せたい範囲を分けて考えましょう。
▼自分で確認できる範囲(銘板・製造年)
最初の手がかりになるのは、機器に付いている銘板(ネームプレート)です。メーカー名・型式・製造年月を控えておくと、その後の判断がスムーズに進みます。
- 照明器具の安定器:1957年1月〜1972年8月製造の業務用・施設用はPCB使用の可能性あり
- トランス・コンデンサー:1972年以前の製造なら高濃度、1990年ごろまでの製造なら低濃度PCBの混入の可能性あり
- 銘板が読めない・見当たらない:メーカーや電気主任技術者に問い合わせる
メーカー各社や業界団体は、型式からPCB使用の有無を調べられる情報を公開しています。ただし、通電中の受変電設備や天井内の安定器を自分で開けて確認するのは感電や落下の危険があるため、やめておきましょう。
▼専門業者に相談すべき範囲
次のような場合は、自己判断で進めず専門家に任せるのが安全です。
- 銘板の情報だけではPCBの有無を判断できない機器がある
- 絶縁油の採取・分析が必要になる
- シーリング材や塗膜など、建材にPCBが含まれている可能性がある
- PCB廃棄物の保管や処分の手続きが必要になる
PCB廃棄物を保管している事業者には、毎年度、都道府県知事などへの届出が義務づけられています。相続した建物で古い機器が見つかった場合も、所有者として対応を求められる可能性があるため、早めに状況を確認しておくと安心です。
▼アスベスト・ダイオキシン・土壌汚染もあわせて調査する
PCBが使われていた時代の建物は、アスベストを含む建材が使われている可能性も高いのが実情です。現在は解体・改修の前にアスベストの事前調査が義務づけられているため、解体前に行うアスベストの事前調査とあわせて計画すると、調査の手間と日程を一度で済ませやすくなります。
焼却炉がある施設ではダイオキシン類の調査、工場や作業場の跡地では土壌汚染の調査が必要になることもあるでしょう。土地を手放す予定がある場合は、土壌汚染のある土地を売却する際の注意点も確認しておくと、売買時の説明や価格交渉で慌てずに済みます。
よくある質問
PCBについて、よくある疑問に答えます。
▼PCBを触ったらどうなる?
PCBは皮膚からも吸収されることがあるため、漏れた油などに素手で触れるのは避けてください。一度触れただけで重い症状が出ることは通常考えにくいものの、触れてしまった場合は石けんと水でよく洗い流しましょう。皮膚の異常や体調の変化が気になるときは、医療機関に相談してください。漏れを見つけたら、周囲に広げないよう触らずに管理し、自治体や専門業者に連絡するのが基本です。
▼PCBはいつから使用禁止になった?
1972年(昭和47年)に行政指導で製造が中止され、1974年(昭和49年)に化審法の第一種特定化学物質に指定されて、製造・輸入・新たな使用が原則禁止になりました。ただし、すでに設置されていた機器はその後も使われ続け、2016年の法改正で期限までの廃棄が義務づけられています。
▼PCBとダイオキシンは同じものですか?
同じではありません。PCBの209種類の異性体のうち、ダイオキシンに似た毒性をもつコプラナーPCBだけが、法律上ダイオキシン類に含まれます。PCB全体はPCB特措法などで管理されており、ダイオキシン類とは別の枠組みで規制されています。
▼古い家庭用の蛍光灯にもPCBは使われていますか?
環境省・経済産業省によると、一般家庭用の照明器具にはPCBを使用した安定器は使われていないとされています。PCB使用の可能性があるのは、1957年1月〜1972年8月に製造された業務用・施設用の照明器具です。ただし、店舗併用住宅や事業所として使っていた建物では、業務用の照明器具が残っている場合があります。
まとめ
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、燃えにくく絶縁性の高い人工の有機塩素化合物で、トランスやコンデンサー、照明の安定器などに広く使われました。分解されにくく体内に蓄積しやすいことから製造・使用が禁止され、現在は期限を定めた処分が進められています。
- PCBは209種類の異性体の総称で、そのうちコプラナーPCBはダイオキシン類に含まれる
- 1968年のカネミ油症事件を経て、1972年に製造中止、1974年に製造・輸入・新規使用が原則禁止となった
- 2001年のPCB特措法で処理が本格化し、2016年の改正で処分期間と使用製品の廃棄が義務化された
- 高濃度PCB廃棄物の処分期間はすでに終了し、低濃度PCB廃棄物は2027年3月31日が期限
- 期限後に見つかっても放置せず、自治体の担当窓口に連絡する
古いビルや工場、相続した建物を解体・売却する予定がある方は、まず機器の銘板と製造年を確認し、判断がつかないものは専門家に相談しましょう。エコ・テックでは、解体工事にあわせたアスベスト・ダイオキシン類・土壌汚染の調査と対策を全国で承っています。どこから手を付けるべきか迷う段階からでもかまいませんので、建物の状況をお聞かせください。
※処分期間や区分の基準は、環境省「PCB廃棄物の適正な処理に向けて」や経済産業省のPCB関連情報で最新の内容をご確認ください。
参考:環境省「ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に向けて」、環境省「ダイオキシン類対策」、経済産業省「PCB使用製品及びPCB廃棄物の期限内処理に向けて」
