アスベストによる健康被害と病気について

アスベストは、天然にできた繊維状けい酸塩鉱物で、「せきめん」「いしわた」と呼ばれています。その繊維は極めて細かく、熱や摩擦に強く、丈夫で変化しにくいという性質を持っているため、耐火、断熱、防音などの目的で、建材などに利用されてきました。アスベストは、クリソタイル(白石綿)、クロシドライド(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、トレモライト、アンソフィライト及びアクチノライトの6種類あます。しかし、アスベストは、飛び散ること、吸い込むことにより人体に健康被害を及ぼすことにより、平成18年9月1日から石綿及び石綿をその重量の0.1%を超えて含有するすべての物の製造、輸入、譲渡、提供、使用が禁止となりました。また、労働安全衛生法や大気汚染防止法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律などで予防や飛散防止等が図られています。

アスベストは、肺線維症(じん肺)、悪性中皮腫の原因になるといわれ、肺がんを起こす可能性があることが知られています。アスベストによる健康被害は、アスベストを扱ってから長い年月を経て出てきます。中皮腫は平均35年前後という長い潜伏期間の後発病することが多いとされています。アスベストを吸うことにより発生する疾病としては主に「石綿(アスベスト)肺」「肺がん」「悪性中皮腫」があります。

アスベストによる健康被害と病気について

①石綿(アスベスト)肺

石綿肺は、肺が線維化してしまう肺線維症(じん肺)という病気の一つです。肺の線維化を起こすものとして、アスベストのほか、粉じん、薬品等多くの原因があげられますが、アスベストのばく露によっておきた肺線維症を特に石綿(アスベスト)肺とよんで区別しています。職業上アスベスト粉塵を10年以上吸入した労働者に起こるといわれており、潜伏期間は15~20年といわれております。アスベスト曝露をやめたあとでも進行することもあります。

②肺がん

アスベストが肺がんを起こすメカニズムはまだ十分に解明されていませんが、肺細胞に取り込まれた石綿繊維の主に物理的刺激により肺がんが発生するとされています。また、喫煙と深い関係にあることも知られています。アスベストばく露から肺がん発症までに15~40年の潜伏期間があり、ばく露量が多いほど肺がんの発生が多いことが知られています。治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。

③悪性中皮腫

悪性中皮腫は、肺を取り囲む胸膜、肝臓や胃などの臓器を囲む腹膜、心臓及び大血管の起始部を覆う心膜等にできる悪性の腫瘍のことをいいます。若い時期にアスベストを吸い込んだ方のほうが悪性中皮腫になりやすく、潜伏期間は20~50年といわれています。治療法には外科治療、抗がん剤治療、放射線治療などがあります。

仕事や自宅周囲の工事等の環境の影響により、アスベストを吸い込んだことで呼吸困難や咳、胸痛などの症状がある方、その他特にご心配な方は呼吸器科を標榜している医療機関に相談されることが推奨されています。アスベスト関連の病気か否かは、胸部X線検査のほか、胸部CT検査、腹部CT検査などにより行いますが、検査では、病気の原因としてアスベストが関連している可能性は示せても、直接の原因かどうかは明確にできないといわれてます。一旦吸い込んだアスベストの一部は異物として痰のなかに混ざり、体外に排出されますが、大量のアスベストを吸い込んだ場合や大きなアスベストは除去されずに肺内に蓄積されます。また、吸入したアスベストの時間と量によって発症の「リスク」が増加します。一般的には、概ね10年以上職業的にばく露を受けた場合に発症の危険性が高まるといわれていますが、どれだけの量を吸ったら発症するかという点については現在不明です。

アスベストによる健康被害事例

①某工業事件

労働者Aが労働先にてアスベストを吸引したことで悪性胸膜中皮腫を患い死亡した事件です。労働者Aは、昭和38年3月、東京都内の高校を卒業し某工業に入社しました。同59年4月に某工業社を退職後、某I社に入社、平成8年8月11日死亡退職となりました。Aは、平成7年11月頃から、胸痛、咳、微熱等の症状が出て痩せ始め、平成8年、国立がんセンター東病院より悪性胸膜中皮腫と診断されています。Aが勤務していた某工業は保温・保冷工事などを、某I社も冷蔵庫およびタンクの保冷工事の設計・施工などをそれぞれ業務内容としていました。Aの遺族は、両社が取り扱っているアスベストを吸入したため、Aは悪性中皮腫に罹患して死亡したとして債務不履行または不法行為による損害賠償を求めたもので、本判決は、某工業の責任を認め約5700万円余の支払いを命じましたが、某I社の責任は認めませんでした。

②高架下建物吹付アスベスト事件

大阪府内の近畿日本鉄道の高架下貸店舗でうどん店を経営していた女性(当時83歳)が、20206月にがんの一種「中皮腫」で死亡していたことが分かった事件です。同じ高架下で中皮腫にかかり死亡したのは、女性で3人目となります。長男は近鉄などに対し、慰謝料など約3600万円の賠償を求めています。長男によると、女性は197015年に高架下の貸店舗でうどん店を経営しており、2階建ての1階を店舗、2階を倉庫や休憩所として使っていましたが、店舗の壁には有害性が強い「青石綿」が吹き付けられ、むき出しだったといいます。女性は1912月に胸膜中皮腫と診断され、206月に死亡しました。この高架下では、文具店長の男性(当時70歳)が胸膜中皮腫にかかり、04年に死亡し、大阪高裁は近鉄の責任を認め、約6000万円の賠償を命じた事例もあります。15年には喫茶店長だった男性(同66歳)が胸膜中皮腫で亡くなっています。遺族は近鉄に損害賠償を申し入れ、金銭的な解決に至っています。

③某ブレーキ工場問題

H市の某ブレーキ工場などでアスベスト作業に従事し健康被害を受けた元従業員と死亡した元従業員の遺族ら11人が国を相手取り約1230万円の損害賠償を求めた訴訟です。当問題については、国と元従業員ら3人の和解がさいたま地裁(大野和明裁判長)で成立しました。和解したのはいずれも某ブレーキ工場の元従業員で70代の男性2人と死亡した男性の妻です。賠償額は大阪泉南アスベスト訴訟の最高裁判決に沿ったもので、1人当たり賠償基準額の半分の550万円に弁護士費用などを加えた額で成立しました。3人はじん肺法に基づく健康管理区分で4段階のうち「管理区分2合併症なし」に該当し、じん肺の所見がない管理区分1に次いで下から2番目の区分で、じん肺の所見が見られ、将来的に健康被害の可能性があるとされます。

アスベストによる健康被害と病気について

アスベストによる被害者の多くは、アスベスト製造工場の粉塵の中で長期間労働した人やその家族、またアスベストを取り扱う工場の近くに在住していた人です。アスベストの製造が禁止された現在の日本ではこの問題は無くなったと言われていますが、禁止以前に建築された古い建造物の中に大量にアスベストが含まれ、将来解体するときアスベスト粉塵を長期間吸う労働者に健康被害が発生するということです。そのため、建築物又は工作物の解体等の作業を行うときは、あらかじめアスベストの使用の有無を調査する必要があります。石綿等の使用の有無を書面調査、目視調査を実施し、それでは明らかとならなかったときには、分析調査を行うか、石綿を含有するものとして取り扱うことになります。

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最新のアスベスト調査義務について徹底解説

アスベストの粉じんを吸入することにより肺がん、中皮腫等の重篤な健康障害を引き起こすおそれがあるため、平成18年年91日からアスベストやアスベストを含む製品等の使用が禁止されました。建築物の解体・改修時には、アスベスト含有建材の使用の有無について設計図書等や目視、分析により事前調査を行うことが石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)で定められています。解体等工事の受注者又は自主施工者が行う石綿の事前調査は、原則として書面調査及び現地での目視調査を行い、対象建材の石綿含有が不明な場合は分析調査を行います。令和3年4月からは、全ての石綿含有建材の除去等工事で作業計画の作成、作業終了時の確認が義務化されました。令和4年4月からは、事前調査結果の都道府県等への報告が必要となります。(現行においても、石綿有無の事前調査は必要です。)また、令和5年10月からは、建築物の事前調査を行う者の資格要件が義務化されます。(現行においても、国通知により「石綿に関する一定の知見を有し、的確な判断ができる者が行うこと」とされています。)万が一アスベストが見落とされ、解体工事を行うと、アスベストが飛散するおそれが高く、現場の労働者のみならず周辺に住む人々への健康へも被害が及びます。

大気汚染防止法による発注者に対しての義務について

大気汚染防止法により、発注者に対して以下の義務があります。アスベストの事前調査が不徹底なことにより、法に定められている届出対象工事が未届けとなった場合は、届出義務者である発注者が法の罰則の対象となるので注意が必要です。

①解体等工事における発注者は、受注者が行うアスベストの事前調査(費用負担や設計図書等の提供)に協力すること。

②吹付け石綿・石綿を含有する断熱材・同保温材及び同耐火被覆材が使用されている建築物等の解体・改造・補修等作業といった届出対象工事の場合は県などに届出すること。

③施工者に対して施工方法、工期、工事費等について作業基準の遵守を妨げる条件を付さないよう配慮すること。

大気汚染防止法による解体等工事の受注者(元請け業者)又は自主施工者に対しての義務について

大気汚染防止法では、解体等工事の受注者又は自主施工者に対して以下の義務があります。アスベストの事前調査が不徹底なことにより、届出対象工事において、届出に係る作業基準を遵守していないと認める場合は、解体等工事の受注者が法の作業基準適合命令等の対象となります。また、その他に、届出対象工事が未届けとなった場合は、届出義務者である発注者(施主)が罰則の対象となります。

①石綿の事前調査を実施すること。

②事前調査結果を解体等工事の発注者(施主)に対して書面で説明すること。

③事前調査結果を解体等工事現場に掲示すること。

④特定工事(吹付け石綿その他石綿を含有する建築材料が使用されている建築物等の解体・改造・補修等の作業を伴う工事)に該当する場合は、作業基準を遵守すること。

アスベスト含有の事前調査においての留意点

①書面調査

設計図書、施工記録等による書面から、アスベスト含有の可能性がある建材を調べ、使用時期や商品名などからアスベスト含有の有無を判定します。書面調査は、現地調査の効率性を高めるだけでなく、調査対象建築物を理解することにより、石綿建材の把握漏れを防ぐ役割があり、これを省略すべきでないとされています。また、設計図書や竣工図等の書面は石綿等の使用状況に関する情報を網羅しているものではなく、必ずしも建築物の現状を現したものとは限らないことから、書面調査の結果を以て調査を終了せず、アスベスト等の使用状況を網羅的に把握するため、現地調査を行う必要があります。

②現地調査

建築物の事前調査は、建築物の解体や改修作業等を行うことに伴う、石綿等による労働者の健康障害を防止するために行うためのものです。そのため、現地調査は、建築物のうち解体や改修作業等を行う部分について、内装や下地等の内側等、外観からでは直接確認できない部分についても網羅して行わなければなりません。

③アスベストを含有する可能性のある建材及び含有の有無の判断

労働安全衛生法令におけるアスベスト等の対象含有率は、昭和50年に石綿の重量が5%を超えるもの、平成7年に1%を超えるもの、平成18年9月に0.1%を超えるものと規定の含有率は変わってきています。このため、アスベストを含有する可能性のある建材について、平成18年9月以前に記載等された情報においては、「石綿を含有しない」とされていても、アスベストを含有しないものとは扱えません。また、6種類すべてのアスベストを対象にした情報でない場合は、アスベストが含まれていないとの証明とならないことはもちろんのことです。アスベストを含有する可能性のある建材のうち、現場施工のものや表示のない工場生産製品は、一般的に当該材料を特定することは困難であるため、当該材料がアスベストを含有しないと明らかにするには分析が必要となります。

アスベスト調査結果の報告

アスベスト解体業者は、令和441日以降は、解体部分の床面積が80㎡以上の解体工事、請負金額が100万円以上の改修工事等を行う際にはアスベスト含有建材の有無にかかわらず、元請業者等がアスベスト調査結果を都道府県等へ報告することが義務付けられます。また施主への説明を行うと共に、アスベスト調査の結果は記録を作成して3年間保存することが義務付けられています。

アスベスト調査の記録について

石綿則第3条第1項及び第2項に基づく記録については、石綿含有建材の有無と使用箇所を明確にしなければなりません。その際は、「アスベストを含有しないと判断した建材は、その判断根拠を示す」「作業者へアスベスト含有建材の使用箇所を的確に伝える」「調査の責任分担を明確にする」等を記録として明確に作成する必要があります。また、石綿則第3条に基づく調査の記録は、石綿等による労働者の健康障害を防止するためのものであることから、第3条の調査に関して、解体等の作業を伴わなければ確認の困難であった箇所等について、記録をしておく必要もあります。

解体工事期間中にアスベスト調査結果を掲示

令和34月以降には、解体工事を行う前に工事に関わる全ての材料について実施したアスベスト含有の有無についての調査結果を工事現場の見やすい箇所に掲示する必要があります。調査結果がアスベストを含まない場合であっても掲示は必須となります。これらは工事の施主(発注者)ではなく元請業者が行うこととされています。

アスベスト調査による石綿ばく露・飛散防止の措置

現地調査や試料採取など事前調査のための一連の工程は、解体・改修工事全体で見たときに、労働者の石綿ばく露を最小化することを目的に行うものです。そのため、裏面確認等は、できるだけ建材の切断等による取壊しを伴わないよう、照明やコンセントなどの電気設備の取外し等により行うよう努める必要があります。また、試料採取を行ったり、網羅的な調査のために現地調査において切断等による取壊しが必要な場合は、石綿則に基づく呼吸用保護具の着用や湿潤化等の措置を徹底することとされています。その他、試料採取したときは、採取痕から粉じんを再飛散させないよう適切な補修の手段を講じなければなりません。

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解体工事施工技士の受験資格

解体工事施工技士とは、解体工事施工者のための国土交通省管轄の国家資格です。解体工事施工技士の資格を取得すると、請負額が500万円以下の解体工事を行うための解体工事業の登録や、解体工事の施工に必要な技術管理者となることができます(1)。解体工事施工技士試験は、公益社団法人全国解体工事業団体連合会[略称:全解工連]が、毎年12月頃に実施しています。合格者は、本人の申請によって全解工連の「解体工事施工技士登録者名簿(毎年発行)」に登録され、全解工連より「登録証」及び「資格者証(携帯用カード)」が交付されます。登録の有効期間は5年間で、毎年23月に実施される更新講習を受講することで登録を更新することができます。

解体工事施工技士資格試験の受験資格

解体工事施工技士試験の受験資格は、「1.原則として解体工事実務経験年数8年以上」ですが、「2.学歴・指定学科卒業によって必要実務経験を短縮」することができるため、学歴によって必要な解体工事の実務経験年数が異なります(2)。

受験に必要な実務経験年数は、①大学・4年制の専門学校を卒業している場合、②短期大学、5年制の高等専門学校、2-3年制の専門学校を卒業している場合、③高等学校、中高一貫6年制の中等教育学校、1年制の専門学校を卒業している場合、④その他の場合で異なります。受験に必要な実務経験年数はそれぞれ、①大学・4年制の専門学校を卒業している場合は「卒業後2年6ヶ月以上」、②短期大学、5年制の高等専門学校、2-3年制の専門学校を卒業している場合は「卒業後3年6ヶ月以上」、③高等学校、中高一貫6年制の中等教育学校、1年制の専門学校を卒業している場合は「卒業後5年6ヶ月以上」、④その他の場合は「8年以上」と定められています。

また、指定学科を卒業している場合にも、必要な実務経験年数は変わります。ここでいう指定学科とは、国土交通省例の定める「土木施工管理技術検定の指定学科」に準じて、全解工連が定めた「解体工事施工技士試験の指定学科」のことを指します。土木(工学)科や電気(工学)科、農業土木(学)科、都市工学科や建築学科等がこれに当たります。詳しくは、全解工連が発表している「(公社)全国解体工事業団体連合会で定める『解体工事施工技士試験』の指定学科」に、指定学科の一覧表とその他の細則について記載されているので、そちらをご参照ください(3)。

大学の指定学科を卒業している場合、受験に必要な実務経験年数が1年、指定学科の高等学校を卒業している場合は2年短縮されます。

学 歴 必要な解体工事の実務経験年数
指定学科を卒業した者 指定学科以外を卒業した者
大学
専門学校(4年制)「高度専門士」
卒業後1年6ヶ月以上 卒業後2年6ヶ月以上
短期大学
高等専門学校(5年制)
専門学校(2年制又は3年制)「専門士」
卒業後2年6ヶ月以上 卒業後3年6ヶ月以上
高等学校
中等教育学校(中高一貫6年)
専門学校(1年制)
卒業後3年6ヶ月以上 卒業後5年6ヶ月以上
その他 8年以上

学歴と必要な解体工事の実務経験年数一覧表
https://www.zenkaikouren.or.jp/engineer/about-overview/)より

解体工事施工技術講習の受講による実務経験年数の短縮措置について

また、全解工連が毎年9-11月頃に全国で実施している解体工事施工技術講習を受講することで、解体工事施工技士試験を受験するために必要な実務経験年数が1年間短縮される措置を受けることができます。解体工事施工技術講習は、国土交通省令(解体工事業に係る登録等に関する省令第七条第二号の登録講習)に基づく登録講習であり、「建築物等の解体工事に携わる者等が『建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(略称:建設リサイクル法)』、その他の関連法令等に的確に対応できる解体工事施工技術を確保すること(4)」を目的とするもので、専用のテキストを使用し、連続2日間の日程で実施されます。受講資格は定められておらず、誰でも受講することができます。

解体工事施工技士の資格が活かせる仕事

解体工事施工技士の資格保持者は、解体工事の技術、廃棄物の適正処理のための知識、施工管理能力などを身につけているとみなされます。そのため、解体工事施工技士の資格が活かせる仕事は、主に土木工事業・解体工事業となります。解体工事施工技士に期待されるのは、解体工事の現場監督や技術管理者の業務を統括する現場管理者としての役割です。それまでに培った経験や知見を活用して、解体工事の見積もりから調査、施工管理、環境保全や廃棄物対策などの業務を統括し、工事を効率的に、正確かつ安全に進めていくことが解体工事施工技士の仕事となります。

一般の建設工事の場合、請負代金が500万円以上の建設工事を行う事業所は、公共工事であるか民間工事であるかに関わらず、建設業法第3条に基づいて、国土交通大臣または都道府県知事から建設業の許可を受けなければなりません(5)。請負代金が500万円以下の「軽微な建設工事」のみを請け負って営業する場合は、必ずしも建設業の許可を受けなくてもよいとされています。しかし、解体工事の場合には一般の建設工事の場合とは異なり、請負額に関わらず解体工事事業者の登録をする必要があります。「解体工事業に係る登録等に関する省令(平成13518日国土交通省令第92)」の制定により、解体工事業を営もうとするものは、その該当区域を管轄する都道府県知事の登録を得なければなりません。解体工事業の登録のための要件は、「解体工事の施工の技術上の管理をつかさどる技術管理者を選任すること」などです。解体工事施工技士の取得者は、「建設リサイクル法に規定された解体工事業の登録及び解体工事現場の施工管理に必要な技術管理者並びに建設業法に規定された解体工事業許可及び解体工事現場の施工管理に必要な主任技術者の資格要件に該当(7)」するので、請負額が500万円未満の解体工事を行う場合に登録が可能になります。そのため、解体工事施工技士の資格保持者は事業所の建設業許可申請や解体工事業登録の際に重宝されます。

解体工事施工技士は、前述の通り技術管理者ならびに主任技術者としての要件を満たしていますが、平成28年の建築業法の改正以降、請負額が500万円以上の大規模な解体工事を行う場合には、解体工事施工技士だけでは作業を行えず、現場に特定・解体工事建設業の専任技術者を置く必要があります。特定・解体工事建設業の専任技術者として認められるための要件は、建築業法第十五条に定められており、①1級土木施工管理技士、②1級建設機械施工技士、③技術士 総合技術管理(建設)+1年以上の解体工事の実務経験又は講習の受講をしていること、④一般・解体専任技術者の要件を満たす者でかつ元請として4,500万円以上の工事に関し2年以上の指導監督的な実務経験を有するもの、となります(8)。そのため、解体工事業でのキャリアアップや将来的な独立を本格的に考えている場合には、解体工事施工技士の資格を取得した後、1級土木施工管理技士や1級建設機械施工技士を目指すことが多くなります。

(1)解体工事施工技士について | 全解工連 (zenkaikouren.or.jp)
(2)解体工事施工技士(登録解体工事試験)とは | 全解工連 (zenkaikouren.or.jp)
(3)shitei-doboku.pdf (zenkaikouren.or.jp)
    shitei-kentiku.pdf (zenkaikouren.or.jp)
(4)令和3年度 解体工事施工技術講習について | 全解工連 (zenkaikouren.or.jp)
(5)建設産業・不動産業:建設業の許可とは - 国土交通省 (mlit.go.jp)
(6)リサイクル:建設リサイクル推進計画 - 国土交通省 (mlit.go.jp)
(7)解体工事施工技士について | 全解工連 (zenkaikouren.or.jp)
(8)https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=324AC0000000100

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土壌汚染の調査方法(フェーズ3)について

これまでの記事では、土壌汚染調査から対策工事に至るまでの全体の大まかな流れと、土壌調査・対策工事の3つのフェーズのうちの第1フェーズに当たる地歴調査、第2フェーズの状況調査・詳細調査の概要や方法、費用についてご紹介してきました。土壌汚染調査の3つのフェーズとは、①地歴調査②状況調査・詳細調査(表層土壌調査・ボーリング調査)③土壌汚染対策工事です。今回の記事では、フェーズ3の土壌汚染対策工事の方法や作業の流れ、費用について解説いたします。

土壌汚染対策工事とは

地歴調査や状況調査によって、対象の土壌汚染の範囲と深度を特定することができたら、次はフェーズ3に当たる土壌汚染対策工事に入ります。土壌汚染対策工事には、掘削除去や原位置浄化など、さまざまな手法があり、予算や作業環境、特定有害物質の種類によって最適な手法は異なります。以下では、土壌汚染対策工事の方法の区分やそれぞれの特徴について説明していきます。

『土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第2版)』によれば、土壌汚染対策工事における汚染の除去等の工程は、汚染が確認された部分の土壌(基準不適合土壌)を掘削して区域外の汚染土壌処理施設で処理する「区域外処理」と、基準不適合土壌の掘削の有無に関わらず区域内で浄化等の処理や封じ込め等の措置を行う「区域内措置」の2つに区分されます。また、後者の「区域内措置」はさらに、基準不適合土壌の掘削を行い、かつ汚染土壌処理施設への搬出を行わない「オンサイト措置」と、基準不適合土壌の掘削を行わず原位置で汚染の除去をする「原位置措置」に分けられます(1)

図1環境省『土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第2版)』より

土壌汚染対策工事(区域外処分)の方法

区域外処分は、「土壌汚染の除去(区域外処分)」と「区域外土壌入換え」に大別されますが、いずれも重機を用いた掘削除去工事が必要となります。掘削除去工事は、もっとも一般的な土壌汚染対策工事の方法です。区域外処分では、汚染のある土壌を重機で掘削し、区域外の汚染土壌処理施設へ搬出後、そこで処理をすることになります。掘削除去工事を行う場合、汚染土壌を丸ごと掘削し運び出すため、全ての特定有害物質に対処できるだけでなく、施工期間が短く、確実にすみやかに汚染土壌を取り除くことができます。ただ、掘削除去工事は施工コストが高額で、狭隘地ではさらに割高になってしまうという欠点もあります。

掘削除去工事の流れは、以下のようになります。汚染のある土壌を油圧ショベルで掘削し、ダンプカーに積み込み、代わりに安全性の確認された健全土を埋め戻します。搬出された汚染土は、場外の処理施設へ運ばれ、そこで処理されます。汚染土壌処理施設には、「浄化処理施設」、「セメント等製造施設」、「埋立処理施設」、「分割等処理施設」の4種類があります。「浄化処理施設」では、汚染土壌に含まれる特定有害物質の除去や不溶化処理を行います。「セメント等製造施設」は、汚染土壌をセメント等製品の原材料として再利用し、セメント等を製造する施設です。「埋立処理施設」は、その名の通り汚染土壌を埋立処分するための施設を指します。「分割等処理施設」では、他の処理施設での処理をスムーズに行うために、汚染土壌に混ざっているコンクリートくずや岩の除去等の調整が行われます(2)

土壌汚染対策工事(区域内措置)の方法

環境省が発行している『区域内措置優良化ガイドブック―オンサイト措置及び原位置措置を適切に実施するために―』によると、土壌汚染対策工事の区域内措置には、汚染された土壌等を適切に管理する「管理型」の対策と、対象地から汚染を取り除くもしくは浄化する「除去型」の対策があります(3)

「管理型」の対策としては、遮水壁、難透水性地盤、舗装等によって汚染土壌をそのままの状態で封じ込め、特定有害物質が広がることを防止する「原位置封じ込め」や、汚染土壌に薬剤を注入・撹拌し、特定有害物質が地下水などに溶け出さないように処理を施す「原位置不溶化」、汚染土壌の表面を被覆することで人への曝露を物理的に遮断する「舗装」「盛土」「立入禁止」等があります。「原位置封じ込め」の対象物質は第一種特定有害物質、第二種特定有害物質、第三種特定有害物質で、「原位置不溶化」は第二種特定有害物質(溶出量のみ)、「舗装」「盛土」「立入禁止」は第二種特定有害物質が対象となります。

「浄化型」の対策は、掘削を伴い区域内で措置をする「オンサイト浄化」と、土壌の掘削を行わずに原位置で実施する「原位置浄化」に分けられます。

「オンサイト浄化」は、掘削した汚染土壌をオンサイトで抽出・分解等の処理するもので主として第一種特定有害物質に有効な措置となります。掘削除去工事と比較すると安価となりますが、狭隘地での施工は割高となり、対象となる特定有害物質の種類が限定的です。オンサイト浄化には、掘削した土壌を加熱することで特定有害物質を抽出または分解する「熱処理」、掘削した土壌に薬剤を添加し、化学反応によって特定有害物質を分解する「化学処理」、微生物のはたらきによって特定有害物質を分解・浄化する「生物処理」、真空抽出などの方法で特定有害物質を捕集する「抽出処理」等の方法があります。

「原位置浄化」は、掘削を伴う工法よりも安価な措置ですが、施工期間が長く、定期的なモニタリングが必要となります。原位置浄化は特に第一種特定有害物質に対して効果があります。原位置浄化の方法には、吸引装置を使って土壌中に含まれる特定有害物質を回収する「土壌ガス吸引」、地下水に溶け込んだ特定有害物質を地下水とともに汲み上げて回収する「地下水揚水」、地下水の中に空気を送り込み、揮発した特定有害物質を改修する「エアースパージング」など、特定有害物質を抽出するための「原位置抽出」、「化学処理」「生物処理」など、薬剤や微生物のはたらきによって特定有害物質を分解する「原位置分解」、汚染土壌に水や薬剤等を注入して、特定有害物質を溶け出させた後、揚水等によって回収する「原位置土壌洗浄」が挙げられます。

土壌汚染対策工事にかかる費用

土壌汚染対策工事は、汚染土壌に含まれる特定有害物質の種類や、敷地の広さ、地下水の有無、予算や工期の長さ、対策後の土地の用途等によって、最適な施工方法が異なります。変動要素が多いため、必要な予算は個々のケースによって大きく異なります。あくまで目安となりますが、掘削工事を行う場合には、汚染土壌の処分費や埋め戻し作業費、運搬費を含めて、1㎥あたり、3万円~10万円以上が相場とされています。また、前述の通り、区域内措置の場合、施工費は比較的安くなり、可能であれば掘削を伴わない原位置浄化が最も安価で、1㎥あたり2万円~3万円ほどの費用で収まる場合もあります。

株式会社エコ・テックの土壌汚染調査及び対策工事について

株式会社エコ・テックでは、調査・分析だけでなく対策方法のプランニングや土地の活用方法のご提案まで、土壌汚染の専門家として様々なアドバイスを行っています。土壌汚染にまつわる一連の問題解決に向け、調査から浄化、リサイクルまで、トータルで承ります。全国(東京・名古屋・大阪・岡山・福岡等)で、無料相談・無料見積もりを実施しておりますので、土壌汚染に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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